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第75回2013.06.26

浜松市多文化共生都市ビジョン

2013年3月、浜松市が多文化共生施策を推進していくための新しいビジョンとして、「多文化共生都市ビジョン」を策定しました。

 浜松市では、国際化施策の指針として2001年度「世界都市化ビジョン」を策定(2007年度改定)し、「共生」「交流・協力」「発信」の各分野での施策を推進してきました。特に「共生」分野については、多文化共生センターと外国人学習支援センターを開設し、日本人市民と外国人市民の共生に向けた各種施策を進めてきました。

 浜松市では、「総合計画」(2007年度策定、2011年度改定)で、「市民協働で築く『未来へかがやく創造都市・浜松』」を謳い、「『創造都市・浜松』推進のための基本方針」(2013年4月)を策定し、市民の持つ多様な文化を創造性の源泉として重視しています。このたび、世界的な金融危機や東日本大震災による経済社会情勢の変化も踏まえ、「相互の理解と尊重のもと、創造と成長を続ける、ともに築く多文化共生都市」の実現を目指した新たなビジョンを策定しました。

 多文化共生都市ビジョンは、「手を取り合い、ともに築くまち(協働)」、「多様性を生かして発展するまち(創造)」、「誰もが快適に暮らせるまち(安心)」の三つの施策体系から成り立っています。そして、その中で、「未来を担う子どもたちの教育」、「安全・安心な暮らしのための防災」、「多様性を生かしたまちづくり」が重点施策に位置づけられています。

 浜松市は、多文化共生分野で全国の自治体をリードしてきましたが、今回のビジョンは、移民統合をめぐる海外の最新動向を参考にした、国際的にも注目に値するものと言えます。欧州では、移民など多様な文化を持つ市民の存在を都市の活力の源泉として捉え、多様性を生かしながら、住民間の交流や対話を通じて社会統合も進める「インターカルチュラル・シティ」が近年、推進されていることはすでにこの連載でも紹介してきたところです。2011、2012年度に東京と浜松で開催された日韓欧多文化共生都市サミットに参加した浜松市は、そうした欧州の知見と経験も参考としつつ、今回のビジョンを策定しました。

 日本の自治体の多文化共生施策の大半は、総務省が2005年度に策定した「地域における多文化共生推進プラン」をモデルとしたものになっています。同プランは、「コミュニケーション支援」、「生活支援」、「多文化共生の地域づくり」の三つの施策体系から成り立っていますが、最初の二つは外国人支援に関わるものです。そして、多文化共生の地域づくりでは、「地域社会に対する意識啓発」と「外国人住民の自立と社会参画」の二つの項目が示されていますが、多様性を地域づくりに生かすという視点は明確には取り入れられていません。実際のところ、浜松市を含め、日本の自治体の取り組みは外国人支援にかかわるものが多く、多文化共生の地域づくりにかかわるものは少ないのが現状です。

 それに対して、インターカルチュラル・シティでは、多様性を様々な分野で生かしながら、社会統合を推進することを目指しています。そうした取り組みは、欧州でもまだ必ずしも大きな成果を挙げているとは言えない状況にあるだけに、「多様性を生かした文化の創造」や「多様性を生かした地域の活性化」を掲げる浜松市の多文化共生都市ビジョンは、日本のみならず、アジアで初めての試みとして、そして日本の多文化共生の進化形(多文化共生2.0)を目指したものとして、高く評価することができるでしょう。

浜松市多文化共生都市ビジョン
http://www.city.hamamatsu.shizuoka.jp/admin/policy/kokusai/kokusaitoppage.html

浜松市の多文化共生都市ビジョンを紹介する欧州評議会「インターカルチュラル・シティ・プログラム」のニュースレター(2013年5月号)
http://www.coe.int/t/dg4/cultureheritage/culture/Cities/Newsletter/
newsletter27/newsletter27_en.asp