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第65回2012.08.22

ICC市長・政治家セミナー in コペンハーゲン

今年6月にインターカルチュラル・シティ(ICC)プログラム(第43、63、64回拙稿参照)の一環として、イタリアでセミナーが開催されたことを先月紹介しましたが、その翌週の6月28・29日には、デンマークの首都コペンハーゲン市で、市長・政治家対象のセミナーも開かれました。

 このセミナーのテーマは多様性への市民の関与(Engaging citizens in diversity)です。忙しい政治家対象のためか、主なプログラムはわずか一日でしたが、その翌日午前には、コペンハーゲン市の視察が組まれました。

 まず午前は、アンナ・ミー・アレスレヴ市長(雇用と統合担当)による歓迎の挨拶に始まり、隣国ノルウェーの国会議員であるハディア・タジク氏による基調講演がありました。タジク氏はまだ20代の女性で、移民の背景(両親がパキスタン出身)を持ち、ノルウェー首相のスピーチライターを務めたこともある政治家です。表現の自由と民主主義を守る中で、いかに多様性(特に欧州におけるイスラム系移民の存在)を否定する言動と闘うかについて、昨年7月のノルウェー連続テロ事件にも触れながら、参加者の心を揺さぶるスピーチを行いました。

 午後は、「多様性のためのキャンペーン」、「ソーシャルメディアで多様性を語る」、「創造的な方法と芸術-多様性におけるその役割」、「若者、民主主義、参加」の計4つのワークショップが開かれました。以下、私が参加した二つのワークショップについて簡単に報告します。

 「多様性のためのキャンペーン」ワークショップでは、バルセロナ(スペイン)、ヌーシャテル(スイス)、オスロ(ノルウェー)の3都市の報告がありました。その中で、特に興味深かったのは、バルセロナ市の「反うわさ戦略(Anti-Rumours Strategy)」でした。

 バルセロナ市は人口162万人の大都市で、住民の4割近くが外国出身者ですが、市のインターカルチュラル・プランの一環として2010年11月にスタートしたのが反うわさ戦略です。移民に関するうわさや事実誤認、偏見などを正すことを目的としたキャンペーンで、地域の市民団体の協力を得て、草の根レベルでうわさに対抗するネットワークをつくりました。また、うわさに対抗するツールとして、ユーモアあふれるマンガやビデオをつくったほか、ジャーナリストと協力して、移民に関する不正確な報道のチェックも行っています。

 「若者、民主主義、参加」ワークショップでは、ベルリン・ノイケルン区(ドイツ)、ロンドン・ルイシャム区(イギリス)、ボッチェルカ市(スウェーデン)、ルツク市(ウクライナ)の4都市の報告がありました。この中で、特に注目を集めたのは、前々回の拙稿でも紹介したルイシャム区のヤング・メイヤーの取り組みでした。今回のセミナーには、ヤング・メイヤー(高校生)と前ヤング・メイヤー(大学生)が他都市の市長らととともに参加し、力強いプレゼンテーションを行いました。

 翌日午前は、コペンハーゲン市内の3つの視察プログラムがあり、私はノアブロ地区というコペンハーゲン市内で最も移民が多く居住する地区にある文化活動拠点「2200カルチャー」と13歳から18歳の若者を対象とするリソースセンターを訪問しました。

 コペンハーゲン市の人口は約54万人で、そのうち外国人は14%で、外国生まれのデンマーク市民および第二世代の移民はそれぞれ5%となります。コペンハーゲン市の移民受け入れの取り組みをリードするのは、前述のアレスレヴ市長(市の行政を分担する7人の市長の一人)です。2010年1月に就任した市長も、前述のタジク氏同様、自身が移民の背景(韓国生まれ)をもつ20代の女性政治家で、市民とのコミュニケーションを重視し、インターネットやソーシャルメディアを積極的に活用することで知られています。インターカルチュラル・シティの理念を強く支持し、今回のセミナーを主催しました。

 コペンハーゲン市が2010年に策定した「統合政策(2011-2014)」では、コペンハーゲン市が2015年までに、欧州で最もインクルーシブな(移民など少数者を社会に包摂する)都市になることを掲げ、企業や学校など社会の様々なセクターと連携することを目指しています。そのため2011年に制定したのが、コペンハーゲン多様性憲章(Copenhagen's Diversity Charter)です。これは、2010年にユーロシティーズ(欧州の主要都市が参加するネットワーク)が採択した統合都市憲章(Charter on Integrating Cities)を参考にしたもので、企業や団体に対して、多様性を組織の規範とすること、公的な議論において多様性が資産とみなされるように貢献すること、そしてコペンハーゲンにおける多様性とインクルージョンを推進し、差別と闘う取り組みを支援することを求めています。

 デンマークは移民に対する制限的な政策で知られていますが、その中で欧州一のインターカルチュラル・シティを目指しているコペンハーゲン市に注目したいと思います。

ハディア・タジク・ノルウェー国会議員のウェブサイト(ノルウェー語)
http://hadia.no/

バルセロナ市による新市民のための情報ポータル(英語)
http://www.bcn.cat/novaciutadania/index_en.html

バルセロナ市の反うわさネットワークのウェブサイト(カタロニア語)
http://www.bcnantirumors.cat/

アンナ・ミー・アレスレヴ・コペンハーゲン市長のウェブサイト(デンマーク語)
http://allerslev.tumblr.com/

コペンハーゲン市の統合政策(2011-2014)(英語)
http://www.coe.int/t/dg4/cultureheritage/culture/cities/
InclusionPolicyCopenhagen2011.pdf


コペンハーゲン市の多様性憲章(英語)
http://www.blanddigibyen.dk/files/2011/06/Copenhagen-Diversity-Charter.pdf