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第64回2012.07.25

プレイスメイキング

インターカルチュラル・シティ(ICC)プログラム(第43回拙稿参照)の一環として、今年の6月、水の都とも呼ばれるイタリアのヴェネツィア(ヴェニス)で1日半にわたるセミナーが開かれました。会場はイタリアで唯一、建築やデザインに特化したヴェネツィアIUAV大学で、東西ヨーロッパの自治体の都市計画担当者や都市設計の専門家を中心に約30名が集まりました。

 今回のセミナーのテーマはインターカルチュラル・プレイスメイキング(place-making)です。プレイスメイキングというのは、自然と人が集まり、交流が進むような魅力的な公共空間をつくることを指す都市計画分野の用語です。文化的多様性を尊重し、文化背景の異なる人々の交流を促すような公共空間(広場、公園、図書館、公民館など)の創造がテーマとなりました。

 セミナーの始めに、インターカルチュラル・シティの専門家、フィル・ウッド氏による基調報告があり、都市計画や都市設計の専門家は、住民の多様性を無視すべきもの、あるいは厄介なものととらえる傾向があることが指摘されました。そしてそうした認識を変え、新しいアプローチを提案することがセミナーの目的であることが述べられました。

 その後、6人の研究者と実務者による報告がありました。その中には、カナダとアメリカからやって来た研究者も含まれていました。報告の中で、三つのインターカルチュラル・プレイスメイキングの具体例が取り上げられました。一つは、先月の拙稿でも紹介したロンドン・ルイシャム区のマルチ・フェイス・コミュニティ・センターで、もう一つは、英国でロンドンに次ぐ大都市であるバーミンガム市における住民参加型の地域再生プロジェクトでした。

 三つめは、ICCプログラム参加都市の一つであるメルティポール市(ウクライナ)にあるゴーリキー公園(36万平米)の「インターカルチュラル・パーク」としての再デザインでした。市の要請に基づいて、オランダの都市設計シンクタンク STADSLABが、祝祭と愛情とスポーツを主なテーマに、多様な文化が交流するゴールデン・サークルと8つのゾーンに公園の中を分けた計画を2010年につくりました。愛情をテーマにしたのは、市内にブライダル関連のお店が多く、市民の結婚への関心が高いためだそうで、公園内にウェディング・レーンが設けられました。残念ながら、資金不足のため、まだこの計画は実現していません。

 私にとって都市計画というのは新しい分野で、プレイスメイキングなど、セミナーの始めは聞きなれない言葉にとまどいました。日本では、多文化共生の観点から都市計画や公共空間について考えるというのは、まだ馴染みがないと思いますが、ヨーロッパでもこうしたテーマのセミナーが開かれるは、初めてのことのようでした。

 なお、セミナー初日の前日に、イタリアのインターカルチュラル・シティのネットワークの会合が開かれ、ヴェネツィアが19番目の都市として加入しました。

*フィル・ウッド氏の基調報告とセミナー・プログラム
http://www.coe.int/t/dg4/cultureheritage/culture/cities/meetings/
Veniceurbanplanning.pdf


*STADSLABによる「インターカルチュラル・パーク・デザイン」
http://www.fontyshogeschoolvoordekunsten.nl/Stadslab/Projects/Past_projects/
Past_projects_Miskolc_2010.aspx


*アメリカから参加したディーン・サイタ・デンバー大学教授が自身のブログ「インターカルチュラル・アーバニズム」に掲載したセミナーの紹介記事
http://www.interculturalurbanism.com/?p=1473