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第53回2011.08.24

シンガポール

移民受け入れの先進国としては、アメリカやカナダあるいはオーストラリアのような伝統的移民国家が注目されることが多いのですが、実はアジアにも移民国家があります。それがシンガポール共和国(以下、シンガポール)です。

 19世紀前半にイギリスの植民地となったシンガポールは、中国やインドなどから多くの労働者の移住が進み、多民族化が進みました。1963年にマラヤ、サバ、サラワクと共にマレーシア連邦を結成し、イギリスから独立した後、1965年にはマレーシアから分離し、都市国家となり今日に至っています。

 2010年の国勢調査によると、シンガポールの人口は約508万人で、外国人は185万人(36%)となっており、アジアはもちろん世界的に見ても極めて外国人の比率の高い国といえます。シンガポールの人口は1970年に207万人でしたが、今日まで大きく増加しており、その多くは移民によるものです。

 シンガポールの統計では、住民人口(国民と永住外国人)と非住民人口(非永住外国人)に分けることが一般的ですが、永住外国人は54万人で、非永住外国人は131万人です。住民人口の民族構成は中国系74%、マレー系13%、インド系9%、その他3%となっています。公用語は英語、中国語、マレー語、タミル語の4言語です。

 シンガポールの外国人政策の特徴は、専門職や管理職など高度技能を有する外国人の積極的誘致と製造業や建設業など現場労働に就く労働者の徹底した雇用管理の二元的な政策と言えます。PパスやQパスと呼ばれる雇用パスを有する前者の場合は、永住資格や国籍取得が奨励され、家族の呼び寄せも認められています。一方、Rパスを有する後者の場合は、労働力需給の調整弁と位置付けられており、外国人雇用税(1980年導入)や外国人雇用上限率(1988年導入)が適用され、家族の呼び寄せは認められません。高度人材と現場労働者の中間的な技能人材であるSパス保有者も、雇用税が課せられ、家族呼び寄せも原則として認められていません。

 シンガポールは、家事・介護労働者や看護師の受け入れも積極的です。家事・介護労働者については、妊娠検査の義務付けや妊娠した労働者の強制退去、シンガポール人との結婚の禁止など、非常に厳しい雇用管理が知られていますが、雇用者による虐待など、人権侵害が社会問題となっています。

 私は2011年3月初旬に日本の外国人政策に関する講演をシンガポールで行う機会がありました。リトル・インディアに足を運んでみましたが、レストランやショップが多く、活気にあふれていました。国勢調査によると、過去10年の間に中国系とマレー系の住民人口の割合が減っているのに対して、インド系の住民人口は7.9%から9.2%に増えています。

 滞在中に現地で読んだ新聞では、シンガポールは多文化主義の国で、これまでキリスト教やヒンドゥ教、イスラム教など異なった宗教間で寛容であることが求められていたけれども、移民が増えているので、これからは、同じ宗教の信者の中の多様性を尊重しなければならないと訴えるコラムが載っていました。

 現地では、外国人が増えすぎていると感じるシンガポール人が多く、政府への不満が高まっていると聞きました。実際に5月に行われたシンガポール議会総選挙では、1965年の独立以来、政権を維持している与党・人民行動党が勝利したものの、野党・労働者党が過去最多となる6議席を獲得しました。

シンガポールは強権的な政治体制のもとにある都市国家であり、日本にとってすぐには参考にしにくいかもしれませんが、アジア一の移民国家として、もっと注目すべきではないかと思いました。