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第50回2011.05.25

もう一つの国際協力

東日本大震災が起きてから,これまで157の国及び42の国際機関等から支援の申し入れがありました。そして、その多くから義援金や物資が送られ、また23カ国の救助隊が派遣されました。支援国には、日本がこれまで援助してきたラオスやアフガニスタンといった発展途上国も含まれます。また、各国の政府だけでなく、非政府組織(NGO)や企業などからも支援の申し出があり、16カ国43のNGOが来日しています。さらに、世界各地で多様なチャリティイベントが開かれ、草の根の市民からも多くの義援金が届いています。

 一方、震災後、特に福島原発で爆発事故が続くと、各国政府が避難勧告をしたこともあり、東北地方や首都圏の外国人の多くは国外に避難しました。そんな様子をとらえ、外国人は頼りにならないという論調も一部見られるようになりました。ある全国紙の人気コラムは、「いつもの週末に比べて、銀座や表参道の外国人は目に見えて少なかった。観光客ばかりか、出張者や留学生、外交官までが日本脱出を急いでいるらしい。物心の支援に感謝しつつ、この国は自らの手で立て直すしかないと胸に刻んだ」と3月半ばに書きました。

 「自らの手」というのは日本人の手と読めますが、実は、震災後も日本に残り、被災地などで復旧・復興活動に参加するボランティアの外国人も少なくありません。宮城県など被災地にある国際交流協会の外国人スタッフは、同国人被災者の支援に奔走していますし、東京のミャンマー(ビルマ)難民や浜松のブラジル人のグループが被災地で炊き出しをしたことは日本のメディアでも報道されました。また、被災市町村の国際交流員や外国語指導助手の中には、震災後も現地に留まり、復旧・復興活動に参加する者も少なくありません。一時急減した外国人留学生も新年度の開始にあたって大半が大学に戻っていますが、留学生の震災ボランティア団体もできています。

 日本は第二次世界大戦からの復興後、数十年にわたって、経済大国としてアジアやアフリカなど発展途上国に経済・技術援助を行ってきましたが、今、再び国際社会から援助を受ける立場になりました。大震災からの復興には、高齢化・過疎化の中での地域経済社会の再生、新たなエネルギー源の確保、そして何より原発事故の収束と放射性物質の除去という、多岐にわたる困難な課題が待ち受けています。こうした難題の解決には、日本国内の総力を結集するのはもちろん、国際社会の協力が不可欠です。

 国際協力といえば、今まで発展途上国を支援することを意味していました。総務省が推進する「地域の国際化」でも、国際交流と国際協力は「外なる国際化」と位置付けられています。今の日本に問われているのは、発想を転換して、よき被援助国となることではないでしょうか。残念ながら、日本には、支援を受ける立場にたった国際協力の専門家は少なく、政府の受け入れ態勢も不十分で、国際社会の資源を最大限活用するといった状態からは程遠く、支援を申し出た外国から不満の声もあがっています。

 現在も放射性物質が漏れ続ける福島原発については、今もなお情報開示が不十分という声が国際社会から上がっています。東京電力が震災直後に原発の炉心溶解(メルトダウン)が起きていたことを最近になってようやく認めたことも、失望を招いています。政府は、近く原発事故の調査委員会を設置するようですが、その中には外国人の専門家も加えるべきではないでしょうか。また、先月設置された東日本大震災復興構想会議は、6月末に第一次提言を発表する予定ですが、その構成員に外国人が一人も含まれていないことは先月号で指摘したところです。また、風評被害を防ぎ、「日本ブランド」を再生するためにも、日本が災害に苦しむだけでなく、復興に取り組んでいることを世界に発信すべきなのに、会議のウェブサイトには日本語の情報しか載っていません。

 世界中から連帯と支援の声が続き、日本と諸外国の間に新しい絆が生まれようとしている今こそ、外国の専門家やNGO、企業などが働きやすい環境を整備し、共に復興に取り組んでいくことによって、世界に開かれた新しい日本をつくるチャンスがやってきたとも言えます。例えば、東北地方に災害分野の国際協力を推進する国際機関を誘致してはどうでしょうか。

 また、復興に向けた国際協力を推進するには、日本の現状や支援のニーズについて、官民が連携して外国語で世界に発信しなければなりません。そのためには在日外国人の力が必要です。そして、この新しい国際協力の成功の鍵を握るのが、日本と外国の懸け橋的存在ともいえる在日外国人ではないでしょうか。

English(PDF):Another Kind of International Cooperation