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第26回2009.05.27

新型インフルエンザと多文化共生

新型インフルエンザが北米大陸を中心に世界的に流行し、日本でも感染者が大きく増加しそうな気配です。かりに今回、感染がこれ以上広がらなくても、気温が下がり、空気が乾燥する秋から冬にかけて、流行の第二波が起きることが恐れられています。

これまで、麻生首相あるいは舛添厚生労働相がことあるごとに記者会見を開き、正確な情報提供に努めてきました。感染者が見つかった自治体でも、首長あるいは責任者が記者会見を開いています。また、首相官邸や厚生労働省のウェブサイトでは、動画も駆使して、最新情報が次々と掲載されています。こうした情報提供は日本語で行われていますが、日本語を十分に理解できない人々への情報提供はどうなっているでしょうか。

2006年3月に公表された総務省の「地域における多文化共生推進プラン」では、地域における具体的な施策の三本柱の一つとして、日本語を十分に理解できない外国人住民への「コミュニケーション支援」を掲げました。そして、コミュケーション支援を地域における情報の多言語化と日本語及び日本社会に関する学習支援に分けました。一般論として、観光客など短期滞在者や来日間もない外国人には情報を多言語で提供し、定住者には日本語教育を推進することが望ましいでしょう。一方、滞在の長短にかかわらず、医療や災害など命に関わる情報は多言語化のニーズが高いと言えるでしょう。

今回の新型インフルエンザに関する情報はまさに命にかかわる重大情報と言えます。新型インフルエンザは、日本人であろうと外国人であろうと、等しく感染の危険があります。そして、社会の一部で感染が広がれば、社会全体に感染のリスクが高まります。若い世代の感染例が多く、学校における感染の拡大が危惧されていますが、国内には外国人学校やインターナショナルスクールも数多くあります。

感染症に関する情報は、全国共通の情報と地域に固有な情報に分かれます。全国共通の情報を各地で翻訳をするのは非効率ですし、情報の正確性の面でも問題がありますが、今回、政府による多言語情報の提供はなく、都道府県設置の国際交流協会の多くが個別に多言語情報の提供に努めています。

感染症に関する多言語による情報提供の責任を負うのは、厚生労働省でしょうか。それとも新しくできた内閣府の定住外国人施策推進室でしょうか。あるいは、総務省の国際室でしょうか。どこの所管であってもよいと思いますが、とにかくどこかに国の「司令塔」が必要です。政府は、一刻も早く、感染症に関する多言語情報の担当部署を定め、自治体と連携して、日本語が十分に理解できない人々へも適切な情報提供に努めることが望まれます。

また、新型インフルエンザの感染が広がる兵庫県と大阪府に今週、台湾当局が大量のマスクを贈呈しましたが、日本政府も、水際対策を重視して国内における感染防止に努めるだけでなく、アジアや地球社会全体における感染拡大の防止に向けて、国際協力のイニシアティブをとることが望まれます。そうした取り組みは、結果的に国内における感染拡大の防止にも役立つに違いありません。