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多文化共生社会に向けて

明治大学商学部教授 山脇 啓造 氏

第08回2007.11.28

学習指導要領と外国人児童生徒

学習指導要領の改訂作業がいよいよ大詰めを迎えています。11月7日に、文部科学省(文科省)が設置した中央教育審議会(中教審)の初等中等教育分科会教育課程部会は、「教育課程部会におけるこれまでの審議のまとめ」を公表しました。現在、「まとめ」に対する意見の募集中で、2008年1月に中教審が答申した後、3月に改訂指導要領が告示される予定です。

学習指導要領というのは、小中高校などで教える標準的な学習内容を示した文書で、学校関係者にとってはバイブルのような存在です。ほぼ10年おきに改訂しています。

日本の公立学校で学ぶ外国人児童生徒の数は、約7万人となっています。しかしながら、現行の学習指導要領には、外国人児童生徒への言及がまったくありません。まるで、日本の学校は、日本人の子どもしか受け入れていないかのようです。

実は、指導要領の総則の「指導計画の作成等に当たって配慮すべき事項」の中に、「海外から帰国した児童などについては、学校生活への適応を図るとともに、外国における生活経験を生かすなど適切な指導を行うこと」という一節があります。文科省によると、この「など」に、外国人児童が含まれるのだそうです。ちなみに、帰国児童生徒の数は約1万人です。

学習指導要領解説には、「国際化の進展に伴い、学校現場では帰国児童や外国人児童の受け入れが多くなっている」とあり、この「など」が「外国人児童」を指していることがわかります。確かに、帰国児童と外国人児童は、「我が国の社会とは異なる言語や生活習慣、行動様式を身に付けている」点で、指導計画上、共通する部分があるかもしれません。しかし、法的地位や生活環境、そしてアイデンティティの問題など、外国人児童に固有の課題もあるはずです。

文科省では、教育振興基本計画の策定作業も進めています。基本計画は、2006年12月に公布・施行された新しい教育基本法に定められたもので、「教育の振興に関する施策についての基本的な方針」を示すものとなります。中教審の教育振興基本計画特別部会が、11月11日に「検討に当たっての基本的な考え方について(案)」と「重点的に取り組むべき事項について(案)」を公表し、こちらも現在、意見の募集中です。

基本的な考え方の中には、外国人児童生徒への言及はありませんが、重点事項の一つ、「個性を尊重しつつ能力を伸ばし、個人として、社会の一員として生きる基盤を育てる」ことの中に、「特別なニーズに対応した教育を充実する」とあります。その中に、「外国人児童生徒等の教育及び海外子女教育の充実」が挙げられ、「小・中学校等における外国人児童生徒等の受入体制の整備や指導の充実のため、外国人児童生徒等の指導にあたる人材の確保や資質の向上、指導方法の改善、就学の促進等の取組への支援を充実する」ことが記されています。

学習指導要領と教育振興基本計画、どちらも今後の日本の教育のあり方を定める重要な文書であり、多文化共生の観点を取り入れたものとなることを期待したいと思います。

学習指導要領に関するウェブサイト
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/index.htm

教育振興基本計画に関するウェブサイト
http://www.mext.go.jp/a_menu/keikaku/07110901.htm