メールマガジン

JIAM情報ひろば

第56回2008.02.27

「阪神→中越→中越沖 震災復興全国フォーラム ~多文化共生社会の実現に向けて~」を開催しました。

 阪神淡路大震災(1995年1月)、新潟県中越地震(2004年10月)、新潟県中越沖地震(2007年7月)各震災での経験を振り返り、災害時における外国籍住民に対する支援のあり方や、これからの多文化共生社会の課題などについて考えるフォーラムを関係団体と連携して共同開催しました。

1 全体概要

(1)日時 平成19年12月21日(金)13:30~16:30
(2)会場 長岡リリックホール(新潟県長岡市寺島町315)
(3)主催 新潟県、長岡市、柏崎市、(財)自治体国際化協会、全国市町村国際文化研修所、(財)新潟県国際交流協会、(財)長岡市国際交流協会、(財)柏崎地域国際化協会、(財)新潟県市町村振興協会
(4)共催 独立行政法人 国際協力機構
(5)後援 総務省、外務省
(6)参加者 全国自治体、国際交流団体関係者等150名


2 パネルディスカッション
《Section1:災害発生時の外国人支援ネットワーク》
 第一部では、「阪神→中越→中越沖」各震災での経験を踏まえ、災害発生時における被災外国人支援のための広域連携や全国ネットワーク構築の必要性について、実際に支援に当たった関係者及び関係機関の代表者の方々から話し合っていただきました。

(1)出講者

【パネリスト】

  • 大野 慎一 氏(全国市町村国際文化研修所学長)
  • 米谷 仁 氏((財)自治体国際化協会支援協力部長)
  • 羽賀 友信 氏(長岡市国際交流センター長)
  • 藤巻 三洋 氏(独立行政法人 国際協力機構
    国際緊急援助隊事務局コーディネーター)
  • 吉富 志津代 氏((特活)多言語センターFACIL理事長)

【コーディネーター】

  • 田村 太郎 氏((特活)多文化共生センター大阪代表理事)

(2)発言要旨

画像:パネルディスカッション風景

 吉富志津代さんからは、阪神淡路大震災の時の活動をまとめたDVDによる紹介と、新潟県中越地震及び中越沖地震の際の多言語センターFACILの支援活動について説明がありました。その中で災害時多言語情報作成ツールを普段から活用しておくことや被災者支援の仕組み作りと併せて、地域に住んでいる外国人に対して無関心な住民が少なくないため、日常的な活動を通して住民の意識を変えていく必要性について指摘がありました。
 羽賀友信さんからは、3年前の中越地震の際に行った被災外国人支援のスキーム「緊急時の三角ネット」とそれを進化させた中越沖地震の際の支援スキームについて説明があり、「公設民営」の多言語支援センターを中心として、諸団体やボランティアが関与していくというしくみ作りについて説明がありました。また、災害発生時に現地に支援センターを立ち上げるためには最低3日間程度の時間を要するため、その3日間をいかに被災外国人からサバイバルしてもらうか、地域の国際交流協会等による日常的なケアの必要性が語られました。

画像:田村太郎氏

 田村太郎さんからは、中越地震の経験を持つメンバーが迅速に動けたことや、全国市町村国際文化研修所(JIAM)の「多文化共生マネージャー研修」修了者のネットワークを活かしたコーディネートができたことが、今回の中越沖地震では大きな力になったことが言及されました。
 藤巻三洋さんからは、JICAボランティアが今回の中越沖地震に支援に入ることになった経緯と現地での活動内容報告、所属されているJICA国際緊急援助隊(JDR)の活動について紹介がありました。その中で、海外で活動するJDRと国内で活動するDMAT(災害派遣医療チーム)とは、メンバーが重なっている部分が多く相互補完の関係にあること、JDR医療チームは年5回の研修を行い、技術的なスキルアップ等を進めていることの報告がありました。また、中越沖地震での活動では、ボランティアレベルの差とMAC(Management、Activity、Capacity)のばらつきが見られたこと、平時から研修や事務局体制整備を行わなければ、現場での効率的かつ効果的な活動は困難との指摘がありました。外国人支援ネットワークという広域的なグループを作り、いつも顔の見えるような関係を築いておくと、そのまま災害発生時に支援活動に入ることができるのではないかとの提言がありました。
 米谷 仁さんからは、自治体国際化協会(CLAIR)が近年、多文化共生の取組を最重要課題の一つとして取り組んでおり、災害時の外国人支援についても新しい課題として注力していることが説明され、CLAIRで作成された「災害時多言語情報作成ツール」について紹介がありました。また、中越沖地震への対応について、新潟県国際交流協会からの要請を受けて全国の地域国際化協会に職員派遣要請を行うとともに、災害時外国人住民支援活動助成事業によりボランティアの派遣交通費等について地域国際化協会に対して助成を行ったことが報告されました。CLAIRでは、災害の体験を共有するために災害対策事例説明会を開催しており、今後も地域国際化協会や自治体単独ではできないことについて自治体国際化協会としてサポートしていきたい旨話されました。
 大野慎一さんからは、大きな災害の際に行政の対応だけでは限界があることから、「公助、共助、自助」の共助についての仕組作りが必要であり、そのための人材育成をおこなうため、CLAIRが経費を負担し全国市町村国際文化研修所(JIAM)で研修を行う多文化共生研修を始めた経緯について紹介がありました。この研修の修了者である多文化共生マネージャーが、今回の中越沖地震で大変活き活きと活動しており、今後も研修を続けたいことや、JIAMにおけるマネージャーの事務的なセンター設置の可能性等についても言及されました。また、JIAMで実施している多文化共生研修は、交通費・宿泊費を含めた研修経費をCLAIRで負担することから、自治体、地域国際化協会、NPO職員から是非積極的に受講していただきたいとのことでした。
 フロアから、東京などの大都市で大きな災害が発生した場合の対応について質問があり、これに関して、大野さんから、地元は被災して動けない状態になり他地域からの応援が必要になることから、普段から他地域とのネットワークを作っておくことが重要との回答がありました。
 また、避難所を巡回する際に、単に通訳できる、言葉が分かるということに止まらず、ケースワーカー、ソーシャルワーカー的な素養が必要とされたのではないかとの質問に対して、田村さんからは、カウンセリング的な力は必要だが、避難者は茫然自失の状態であるためニーズの聞き取りはあまり意味がなく、毎日定期的に訪問し信頼関係を構築する中で自然に困っていることが開示されるということ、羽賀さんからは、聞き役になって寄り添い、不安を聞いてあげることが大事との回答がありました。

《Section2:多文化共生社会の課題》
 第二部では、今後も地域に増えていく在住外国人とともに創っていく「多文化共生社会」の展望や今後の課題について、実務家や研究者の方々から話し合っていただきました。
 なお、冒頭で、衆議院議員 長島忠美氏(旧山古志村長)から、被災地支援に対する御礼のあいさつがありました。

(1)出講者

【パネリスト】

  • 杉澤 経子 氏(東京外国語大学多言語・多文化教育研究センター
    プログラムコーディネーター)
  • 須田 麗子 氏((財)新潟県国際交流協会 元ボランティア相談員)
  • 田村 太郎 氏((特活)多文化共生センター大阪代表理事)

【コーディネーター】

  • 羽賀 友信 氏(長岡市国際交流センター長)

(2)発言要旨

 最初に羽賀友信さんから、日本には言葉の壁、制度の壁、心の壁の三つの壁があり、それが多文化共生の障碍になっていること、現在の出入国管理制度では外国人登録した後の移動は把握されておらず、市民として住民基本台帳に載っていないため、実数として何人いるか不明であり、災害時に被災者支援をする上でも支障があるとの問題提起がされました。

画像:パネルディスカッション風景

 杉澤経子さんからは、多文化共生に関する取組について以下の報告がありました。集住都市会議で在日ブラジル人や日系人が大きな問題となっているのと違って、大都市では多国籍化・定住化に伴い、在住外国人の離婚、在留資格、心の問題など問題が複雑になってきていること。都内の国際交流団体、自治体等による「東京外国人支援ネットワーク」を立ち上げ、その主な活動の一つとして多分野の専門家と多言語の通訳がタイアップして、「都内リレー専門家相談会」を開催しており、そこでの外国人相談の中には今後大きな問題となると考えられる内容のものもあるため、相談会終了後に課題共有の場としての「フィードバックミーティング」を重視していること。自治体の外国人施策について、自治体の担当者が2~3年すると異動してしまい経験・ノウハウの蓄積がされないため、NPOとの協働の場面では専門性を持たない職員の下で下請的な扱いをされている現状もある。公設民営の団体として機能すべき国際交流協会にはお金と場所がありながら機能していないところも多いが、ここに良い人材が入れば自治体の国際化施策はより良い方向に動くであろうこと。専門職員と自治体職員が国際交流協会で仕事をするというサイクルの中で多文化共生に関する理解を深め、自治体総体として多文化共生施策を推進することが重要であるということが言及されました。
 また、国際交流協会が機能していないのではないかという問題意識から、2003年から2005年まで実行委員会形式で3回にわたって「国際交流協力実践者・全国会議」を開催し、全国の顔の見えるコーディネーターのネットワーク、多文化共生施策を推進する職員のネットワークを作ることができたこと、現在、東京外大多言語・多文化共生センターでは、取組の一つとして各分野の実践者、研究者により協働実践研究会を立ち上げており、その一環として全国フォーラムを開催したこと。災害時に専門家がどう機能するのか大学の人材の活用を検討していること、多言語・多文化社会におけるコーディネーター人材を育成するため、2008年から文部科学省の委託を受け、コーディネーター養成プログラムを開始することになったこと等が報告されました。
 須田麗子さんからは、国際結婚でブルネイから日本に来て27年経っているが、「国際交流」という言葉がまだあるのはおかしいのではないか、外国人と日本人の仕分けをなくすべきではないかとの問題提起がありました。
 羽賀さんから、須田さんは10カ国語を話す「歩く多文化共生」のような存在であり、スマトラ沖地震、中越地震、中越沖地震の際には現地に被災者支援に入られ、須田さんが災害時に現場にいると非常に心強いとのコメントがありました。
 田村太郎さんからは、現在、多文化共生は世界共通の問題となっており、90年代から国境を越えて人の流れが活発になってきていることから、国境の概念を改める必要があること、移民を受け入れたい国が増えており送り出し国がイニシアチブを持ち始めるなか、国境を開けると喜んで外国から人が来てくれるだろうという旧来の発想は改める必要があることが話されました。
 また、日本では、2005年頃からようやく動きが出始め、2005年から2007年度まで総務省「地方行政の重点施策」で多文化共生の推進が重点施策化されており、2006年3月には総務省から「多文化共生推進プログラム」が示されていること、外国人住民台帳制度(仮称)は2008年度中にも法制化される見込みであること、公益法人制度改革により国際交流協会も公益性を重視した取組をすることが求められていることが言及されました。今後の課題として、担当大臣や内閣での担当部局の設置、根拠法令の整備の必要性、移民政策や定住支援に関する研究を行う専門的な研究機関の設置の必要性、災害時の専門人材の派遣・受入スキームの確立、全国的な多文化共生ネットワーク構築の必要性が提示されました。
 フロアの質問者から、外国人登録の英訳表記である「Alien Registration」は、外国人に対する日本人の心の壁を象徴しており、「Foreign Registration」に改めるべきではないかとの指摘があり、 羽賀さんから、長岡市では在住外国人の指摘を受け、「Foreign Registration」に表記を改めているとのことでした。

画像:羽賀友信氏

  羽賀さんから、外国人花嫁やワーキングプアで外国人に負の部分を担わせるだけでケアしていないのではないか、また、中山間地における散在都市において多文化共生をいかに進めたらよいかとの問題提起があり、杉澤さんから東京は散在都市の状況であり、コミュニティの中で地域につなぐ人のネットワークを作っていくことが重要であること、田村さんからは、点在地域と集住地域に本質的な違いはなく、タイムラグや課題のボリウムのちがいはあるものの、あまり集住地区と点在地区を分けて議論しない方がよいとの指摘がありました。
 最後に、羽賀さんから、災害を自己完結せず、プラットフォームをコンセプト化して共有することが重要であり、このネットワークをつないで日常の活動に活かしてもらいたいとの呼び掛けがあり、パネルディスカッションが終了しました。

3 その他
 フォーラム終了後、会場を移して交流会が開催され、全国各地からフォーラムに参加いただいた方々が和やかに情報交換されていました。
 また、翌12月22日(土)には、3年前の中越地震で被災した山古志地域及び昨年7月の中越沖地震で被災した柏崎地域の復旧状況の視察が行われました。

(以上)

(JIAMメールマガジン第56号掲載(2008.2.27発行))