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コラム

早稲田大学マニフェスト研究所 事務局長 中村 健

2020.08.26

『議会改革度調査』からみる地方議会のトレンドと課題

 早稲田大学マニフェスト研究所が毎年実施している『議会改革度調査』は今年10年目を迎えた。全国すべての地方議会(都道府県市区町村議会)を対象に「今、地方議会はどのような活動をしているか?」を調査するため2010年から実施している。本稿では、この調査からみえる地方議会の活動のトレンドの変遷や今の地方議会の課題について解説する。

1.議会改革度調査とは

 2000年に施行された地方分権一括法により機関委任事務が廃止され、地方は自治事務と法定受託事務を担うようになった。国という機関が都道府県市区町村(以下、地方自治体という)という機関へ事務を委任する関係、いわゆる「地方自治体の事務の大半は国の事務の下請け」をおこなっていた関係から、地方自治体は「自ら課題を見つけ、政策を考え、解決していく」自治事務と「法律に基づいて国の事務を受託して行う」法定受託事務に変わり、地方自治体の自主性が求められるようになった。当然、地方自治体の意思決定機関としての議会の存在がクローズアップされることになる。そんな折、2006年に栗山町議会が全国に先駆けて自らの活動規範となる議会基本条例を制定し、本来の地方議会の役割について探求を始めた。これに刺激を受けた全国の地方議会は次々に議会基本条例を制定していった。
 早稲田大学マニフェスト研究所は、活動が活発化してきた地方議会を研究するため2009年に議会改革調査部会を設立し「全国すべての地方議会が今どのような活動をしているのか」を調査するための『議会改革度調査』をおこなうこととした。
 先ず、本調査をおこなう前に「何のために調査するのか?」、「調査した結果、何がどう変化するのか?」を定める必要があった。そこで、当時、全国各地の地方議会で制定され始めていた議会基本条例を全て集めて研究することとした。そこから共通のキーワードを見つけることが出来た。それは、大半の議会基本条例中に『市民に対して開かれた議会を目指す』と記されている事だった。そして、市民へ議会を開くために「議会の情報をオープンにすること(情報共有)」、「住民が議会へ参加すること(住民参加)」、「今までの議会運営ルールを改め足りない機能については制度を整えること(機能強化)」に注力して取り組んでいくと記された条例が多いことが分かった。
 ところが、「議会がなにをするか」については様々な取り組みが条例の中に記載されていたが、「なぜ議会を開くのか?」、「議会を開くとどうなるのか?」という点については不明確であった。そのため、議会改革度調査は「開かれた議会のその先(なぜ議会を開くのか?)」を明らかにするために調査を実施することとした。(図1:2009年に検討した議会改革度調査のロジックツリー)

図1
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2.地方議会の活動のトレンド

 調査を開始した2010年頃は「全国の地方議会がどのような活動をしているか?」に注目したところ、毎年、地方議会が新しい活動を始めていることがうかがえた。これは、住民からの「議会はなにをやっているのかわからない」という声に応えるため「議会の活動を住民に知ってもらう活動」に積極的に取り組んでいるということであった。数年経過し、次第に新たな活動をおこなってきた議会が、その活動の検証を自ら始めた。これまで「住民に知ってもらう」活動をしてきた議会の「これまで活動してきたが果たして住民の議会への認知度は向上したのか?」という課題認識によるものである。積極的に活動してきた議会が一旦立ち止まって活動の成果を振返り、場合によっては活動を改める取り組みが始まった。そして、近年、議会が活動した結果「地域が良くなったのか?」、「地域の課題や住民の不安は縮小したのか?」、「地域の未来は創造できたのか?」を議会活動と連動させて評価を始めた議会が登場してきた。地方自治体の活動の背骨となる総合計画や総合戦略に基づき年次予算や計画は作成されており、議会はそれを議決している。すなわち、議会が決めたことによって行政サービスが行われるのだが、その行政サービスは的確であったのか?(議決結果は地域を良くしたのか?)という視点である。地域に影響を与える議決になるため、議会が話し合う際の情報の入手方法、話し合いの手法、時間等々、従来の議会運営手法を改める必要がある。また、情報共有も「情報公開⇒情報提供⇒情報共有」へと変化し、住民参加も「住民参加⇒住民参画」へと活動が進化している。(図2:議会改革度調査で重要視した項目の変遷)


図2
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3.地方議会の課題

 2020年、年明けから世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスにより「3密(密閉・密集・密接)」を避けなければならなくなった。このことは「住民意見を聴く・議論する」という議会活動の根幹を揺るがした。人とできるだけ会わないようにしなければならない、ソーシャルディスタンスを保たなければならない、長時間の会議は避けなければならなくなり従来の議会活動が全くできなくなったのだ。これにより、地方議会は住民にとって「活動しているのかどうかわからない」存在に一層なってしまった。
 「新型コロナウイルスがおさまれば元の状態に戻る」という人もいるが、筆者は「ウイルスがおさまっても人の心理に一旦芽生えた不安は直ぐに解消できるものではなく以前の様な社会には戻らない」と考えている。すなわち、住民意見の集約の手法も議員間の議論の手法も議会事務局との連携の方法も何から何まで従来の議会運営を改めていく必要がある。また、新型コロナウイルスへの予防ワクチンや治療薬が開発されるまでには、まだ時間がかかると言われているため、それまで議会が何もしなくても良いかと言えばそうではない。住民の意見をどのように聴き、十分に議論できる環境をどのように整えるかは最緊急課題である。
 その一つがインターネットを活用した取り組みだろう。しかし、議会改革度調査からみえる議会のIT化の現状は惨憺たるものと言わざるを得ない。これからくる秋から冬にかけてはウイルスが活発になるだけでなくインフルエンザ等の別のウイルス感染も伴う可能性があるため、今よりも「集まれない」状態は深刻になる事を想定しIT環境を直ぐに整えるべきである。
※2019年12月末時点での地方議会の状況(図3:PCやタブレット端末の導入率、図4:テレビ会議やweb会議が行える議会の割合)

図3
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図4
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 また、新型コロナウイルスの感染拡大の最中、全国各地で豪雨災害が発生した。地域や住民の生活を脅かすことは、いつなにが発生しても対応できるように議会も備えておくべきである。そのためには、議会がいつでも開催出来る状態にしておくことが望ましいが、議会改革度調査からみえる通年議会の導入率は低いままである。(図5:通年議会の導入)

図5
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 地方議会は住民自治の根幹を成す。いかなる環境でも地方議会が機能する状況を整える努力を今おこなうべきである。議会改革度調査は「今の地方議会の課題」と「その解決方法」、そして「地方議会活動のその先にあるもの」を研究するためのツールである。全国の地方議会の皆様には、毎年、ご多忙の中にも関わらず調査にご協力をいただいていることに感謝を申し上げ、今後も地方議会の活動の参考となるような研究成果の質的向上に意欲的に取り組んでいく決意である。