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コラム

関西学院大学大学院経営戦略研究科 研究科長 教授  日本中小企業学会 会長 兵庫県参与 佐竹 隆幸

2019.11.27

自治体の中小企業支援

1. はじめに ~中小企業を取り巻く環境
 近年、中小企業経営における最大の問題は、事業承継問題である。事業承継者不足により経営の担い手が不在になり中小企業の廃業が進めば、従来から市場や顧客に提供していた製品やサービスが失われるだけでなく、技術やサービス提供の価値、そして何よりも雇用が失われる。雇用の喪失は納税の減少を招き、地域そのものの存続を危うくさせると同時に、有効需要となる消費や投資にも多大なる影響を与える。当然当該企業が存立する地域にとっての損失は小さくなく、将来にわたって及ぼす影響は図りしれない。中小企業は企業経営活動を通じて経済のみならず技術や技能、文化の継承においても貢献をしており、地域経済活力の源泉として地域の雇用と財政をも支えるという大きな役割を果たしている。そのため地域の中小企業や小規模事業者には「永続的にその地域に存立していく経営実現(going concern)」が求められている。このコラムでは、中小企業が地域に存立し続けるために避けては通れない事業承継の現状を解説したうえで、金融機関や経済団体による支援で求められる「伴走型支援」と、自治体による支援で求められる「信用力付与」について述べることとしたい。

2.事業承継における現状と課題
 『2019年版中小企業白書』によると、近年は少子高齢化による人口減少局面により、生産年齢人口が減少し人手不足となっている。日本の人口は2008年の約1億2800万人をピークに、2011年以降は減少局面が続いており、将来的にも増加に転じる見込みがない。日本の企業(個人事業主を含む)の経営の担い手の数について、59歳以下の経営の担い手は、1992年から2017年にかけて802万人から438万人と約45%減少している。他方、60歳以上の経営の担い手は、同じ期間に359万人から447万人と約25%増加している。経営の担い手の高齢化が進んだ結果、2017年時点では、経営の担い手の数は60歳以上が59歳以下を上回っており、最も多い経営者の年齢も1995年は47歳であったが、2018年には69歳となっており、経営者年齢の高齢化が進んでいる。 
 経営者の高齢化が進むと、年齢を理由に引退を迎える経営者が増えると予想され、承継者不在の場合は休廃業・解散につながることから、中小企業・小規模事業者数は減少傾向にある。こうした中で、地域社会ひいては日本経済を維持・発展させるためには、新たな経営の担い手の参入や、有用な事業・経営資源を次世代に引き継ぐことが重要になる。

3. 事業承継問題における伴走型支援の必要性と問題点
 事業承継は取組開始から承継実施に至るまで約10年を要することもあり、そのため支援者が企業と伴に走りながら、長期にわたり寄り添い企業支援を行う、いわゆる「伴走型支援」が必要となる。政策としては、これまで小規模事業者の記帳や税務の指導を行ってきた商工会・商工会議所が、地域の中小企業や小規模事業者の課題を自らの課題として捉え、小規模事業者による事業計画の策定を支援し、その着実なフォローアップを行う支援体制を整備していくことが求められている。
 商工会・商工会議所が実施する小規模事業者支援法における経営発達支援計画においても、「伴走型支援」が事業者支援の基盤となっているが、支援について、企業に対し上から目線を持ち、「企業を支援してあげる」という対応をするケースがある。
 事業承継問題に対応しきれないということは地域の会員事業者が減少し存在しなくなることをさし、この場合自ずと経済団体も存立できなくなる。特に過疎化が深刻な中山間地域となると、その傾向は顕著であり、そのため事業承継問題は企業だけでなく、商工会・商工会議所にとっての問題でもある。商工会・商工会議所においては、この認識を持ち「上から目線」ではなく、長く寄り添う支援をする必要がある。
 金融機関も同様に、上から目線で「企業を支援してあげる」ということを「伴走型支援」であると取り違えているケースがある。メガバンクや地方銀行については、特定地域が衰退し事業ができなくても広範囲な営業エリアのなかで他へ営業エリアを変更すれば生き残ることができるため、地域や中小企業、特に小規模事業者への関心が希薄ともいえ、「上から目線支援」的な傾向がある。対して信用金庫は営業エリアが限定的であるため、リレーションシップ・バンキングといった地域貢献型金融を理念として標榜し、地元企業と地域金融機関との「ギブ&テイク」の関係になる必要があり、「伴走型支援」には適している。地元の企業を支援しなければ地域金融機関自体も倒産することとなり、地元としても金融機関がなくなれば経営基盤が崩壊の危機にさらされる。地域貢献という意味でも地域金融機関は存続しつづけなければならないのである。
 「伴走型支援」の本質は、「二人三脚で支援する」ことであり、決して経済団体や金融機関が"上から目線"で一方的に支援するのではない。経済団体や金融機関において「伴走型支援」を行い会員や顧客を育成しながら、経済団体や金融機関自らも組織や事業の存続を図る必要がある。地元の中小企業を支援するのは経済団体や金融機関にとっての生存戦略なのである。

4.中小企業支援における自治体の役割としての信用力付与
 地域の経済団体は、地域中小企業が有する優れた製品やサービスに反映できるビジネスモデルの構築に向けた経営改善や補助金制度の紹介を含む側面的支援を行なう。地域金融機関はビジネスモデルを評価する仕組を用いながら融資により中小企業に必要な資金調達を実現させる。支援組織の戦略的方策によりビジネスモデルが強化・推進され、「伴走型支援」の好循環化が達成される。これにより地域における経済団体や金融機関の存立基盤も強固なものになり、地域そのものの持続的な発展が可能となる。これが「伴走型支援」がもたらす自立の実現と考えられる。そのためには、地域におけるさまざまなステークホルダーが連携しながら地域中小企業の事業承継と「伴走型支援」の高度化をいかに図るのか、そのためのプラットフォームを地域でいかに構築していくかが問われる。
 そこで、自治体における中小企業支援の役割としては、経済団体や地域金融機関では実効できない長期的かつ継続的な支援が求められる。自治体の支援といえば、補助金のように思われるが、そのほかにも、プラットフォームの構築に加え、地域におけるソーシャル・ビジネス等の連携体組織に行政として関わることで、連携体組織に対しての「お墨付き」を与え、信用力を付与することがある。自治体が行うビジネスモデルへの信用力付与が組織の早期成長発展を促し、また継続性を高め、地域における経済効果を持続させることが可能になる。このような信用力付与機能こそが、自治体の中小企業支援における重要な役割であると考える。自治体をはじめ、経済団体、金融機関がそれぞれに企業に対して必要な支援を果たすことで、永続的にその地域に存立していく経営を実現させ、結果として地域の持続可能な成長発展を目指すということがこれからの企業支援のあり方である。