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第96回2013.03.27

インタビュー:熱海市総合政策推進室 主査 杉山 由記 さん(下)

 熱海市はパブリシティ活動を本格化するとともに、民間企業とのタイアップも増やしていった。移住促進を進めるために、「熱海時間」というコンセプト、そしてWEBでの展開を繰り広げていく。


杉山   「熱海時間」の作成にあたっては、通常、委託業務でやると委託業者にお任せっきりになるところですが、コンテンツとか画像など、発信すべき魅力を、広報担当課・観光課・総合政策推進室と、内部でプロジェクトチームをつくり、委託業者と定期的にキャッチボールをしながらつくり上げました。私たち地域に住んでいる職員も、移住者の方の視点から気づかされることも多く、海から太陽が昇り海の青が移りゆく光景だったり、月の光が海につくる光の道を「月の道」というんですが、その美しさであったり、日常と思う光景が発信すべき魅力にもなるんだということも、ページを作り上げていく中で、整理できた気がします。

稲継   あのページは非常によくできているなと思うんですけど。あの8組の方は、どうやって選ばれたんですか?

杉山   熱海にはいろいろなライフスタイルの移住者の方がいらっしゃいます。お子さんをお持ちの若年の方、首都圏に通勤されている方、二地域居住をされている方など、そういった様々なライフスタイルに合う方を、人的ネットワークを使ってご紹介をいただき、インタビューさせていただきました。

稲継   えっ、二地域居住ってどういうことですか?

杉山   平日は首都圏で暮らし、週末は熱海の家で過ごすというような、二つの地域に生活拠点があることを二地域居住と言うんです。
 移住者の方以外にも、本当に「熱海時間」を作るのには、多くの市民の方にご協力をいただいたと思います。「ココスキ365!」という、熱海のお気に入りの場所や食べ物、自然などを取り上げているページがあるんですが、市民の方からたくさんの応募をいただきました。実際に熱海に住んでいる人の、「あそこのお店のここが好きなんだよね」とかみたいな、そういった旅行雑誌には載っていないような生の声が語られるページになったので、「熱海時間」は本当に魅力満載のページになったと思っています。

稲継   なるほど。あと投資の話ですけど、投資は今後どういうふうに取り組んでいくことになるんですかね。

杉山   私は直接担当していませんが、平成23年度から、副市長を筆頭に産業振興課と総合政策推進室を中心とした、「民間投資プロジェクト」という、庁内に横断的な体制ができています。遊休市有地をピックアップし、その土地を有効活用するための民間の発想や企画力による投資を呼び込むような活動を行っています。公募第一弾として、東京方面からの熱海の玄関口であるお宮の松付近にある遊休市有地活用の公募を行い、この2月にコンビニエンスストアがオープンする予定です。それも通常のコンビニと違い、賑わいの創出になるような、オープンデッキもできる予定です。

稲継   コンビニにオープンデッキですか?

画像:お宮緑地に咲くジャカランダ
お宮緑地に咲くジャカランダ

杉山   そうなんです。それ以外にも環境に配慮したEVの急速充電器や、風力発電などの環境に配慮した付帯設備も設置される予定で、特徴的なコンビニエンスストアになると思います。
 また、その付近には、世界三大花木の紫色のブドウの房状の花が咲くという南アフリカ原産の花木のプロムナードもできる予定です。篤志家の方からご寄付をいただき、平成24、25年度で60本ほどジャカランダを植栽するので、そうなると、車での熱海の玄関口である貫一お宮像のあたりの風景もリニューアルし更に魅力アップする予定です。

稲継   篤志家の方と言えば、他にも熱海に投資されたとか?

杉山   そうなんです。1世紀ぶりの熱海梅園のリニューアルや、糸川沿いの桜並木の整備なども、花木等のご支援をいただき実現したものです。住まわれている方はもちろんのこと、居住者以外でも熱海を応援してくださる「熱海ファン」の存在も、熱海の貴重な財産です。
 こういった街の魅力がアップする機会を捉えて、変わりつつある熱海、「新生(リニューアル)・熱海」をお伝えしていきたいと思っています。

稲継   なるほど。ありがとうございます。ここまでずっと、今、取り組んでおられる仕事を中心に聞いてきたんですが、杉山さんが熱海市役所に入られたのは、いつですか?

杉山   平成8年です。

稲継   最初はどういう仕事をしておられたんですか?

杉山   最初は生涯学習課の中央公民館に配属されまして、施設運営と市民教室とか、そういった事業を担当している部署に3年間ほどいました。

稲継   そのときに、思い出に残っていることは何かありますか?

杉山   市民の方って、いろいろな方がいらっしゃるなと思いました。

稲継   いろいろな方?

杉山   はい(笑)。公民館というのは、市民教室とか、市民大学講座とか、生涯学習事業をやっていますが、それ以外に、公民館は地域活動の拠点としても利用されています。青少年の非行防止の活動とか、自主防災会の方とか、地域を良くしようとする活動に、多くの市民の方が携わっているということを実感しました。市民の力ってすごく大きいなと思うんです。行政の力というのは限られていて、人口3万9,000人強のところで何かやろうと思うと、それがひと仕事になる部分もあります。だけど、それを住民自治ではないですけど、地域のことを考えてくださる住民の力で、様々な地域活動を行ってくださるというのは、ありがたいなと思いました。市役所に入るまでは、地域に住んでいながらそういったことはあまり実感していませんでした。でも、入庁したばかりだったのでいろいろなことを言われて四苦八苦もしましたけど(笑)。

稲継   四苦八苦(笑)。どういうふうに四苦八苦されていたんですか?

杉山   まだ若かったので「ちょっとさぁ」みたいな感じで、市政のいろいろなことを言われて、悩むこともありましたけど(笑)。

稲継   「何でも言ったれ」とか、「ここ、おかしいで」みたいな感じですね。

杉山   でも、四角四面ではないそういった気軽に言ってくださる市民の方とのコミュニケーションの中から、「実は、こんなことに困っているんだ」ということも分かりましたし、情報収集もでき、多くの市民の方との接点もできたので、すごく面白い職場でした。

稲継   なるほどね。そこに3年おられて、次にどういう仕事をされたんですか?

杉山   次は市民課に移動しました。最初の1年は戸籍係にいて外国人登録の担当をし、その後の2年間は市民係で住民記録や、戸籍の受付、証明の発行事務を担当していました。

稲継   トータルで3年いらしたんですね。何か思い出とかありますか?

杉山   そうですね。戸籍法は自分の勉強にもなりましたし、知り合いからも戸籍のことをよく聞かれたりするので、今でも役立っています。一般的には人生の中で戸籍に関わることってすごく少ないですからね。
 私は、その後福祉事務所にも異動しましたが、親族照会をするときには、戸籍が細かく見られるので大変役立ちました。

稲継   今、おっしゃいましたが、次が福祉?

杉山   いや、その間に、みどり農水課に異動しました。

稲継   みどり農水課? 何をする?

杉山   みどり農水課という課自体は、観光部にあり、観光施設や公共花壇の管理などを担当する部署なんですけれど、私が異動した時は、ちょうど2004年に浜名湖で花博がある予定で、サテライト会場として、熱海でも花博をやるということで、ガーデンシティ推進室というところで、その担当をさせていただきました。

稲継   なるほどね。具体的にはどういうことをやるわけですか?

杉山   イベント全体の企画・運営全般です。当然、事業費も大きかったので、委託でやったんですが、当初は事務局の担当者が少なかったので、営業活動から、広報PRから、すごく幅広い部分をやりました(笑)。

稲継   何でも屋?

画像:熱海市役所
熱海市役所

杉山   そうですね。それ以外にも出展事業者の関係、建築関係の委託、催事の関係、ボランティアの運営、本当にイベント全般の運営という形で、市役所ではなかなか携われない仕事内容でした。

稲継   なかなか普通は、携わらない仕事ですよね。
 それが今のシティプロモーションの仕事にちょっと生かされている部分もあるということですね。

杉山   そうですね。私個人としては、委託の事業者から催事運営のノウハウで学んだ部分がありますし、大規模イベント運営という点では、本当にPRの重要性を骨身にしみて認識しました。当然、今となればああしておけばよかったみたいなこともあるんですけど。

稲継   なるほどね。そのみどり農水課の後は、福祉?

杉山   そうです。福祉事務所のしあわせ推進課というところです。

稲継   どういう部署ですか?

杉山   私が担当したのは、福祉企画と、高齢者福祉の一部分です。

稲継   なるほど具体的にどういうことをやられたんですか?

杉山   当時、福祉部門では、「高齢者保健福祉計画」「介護保険事業計画」など、個別に計画を立てていたのですが、「障害福祉計画」「地域福祉計画」を策定するにあたり、福祉に関する計画をまとめようと、当時の福祉事務所長が企画され、「福祉総合計画」として策定することになり、その主管課としてのとりまとめや地域福祉計画の策定に携わりました。それから、熱海市は県内でも高齢化が進んでおり、ひとり暮らし高齢者の方も多くいらっしゃいますので、民生委員さんや防災部局と連携して、当時では先進的に「災害時要援護者台帳」の作成をしました。高齢者福祉の部分では、養護老人ホームの担当をし、身寄りがなく在宅での生活が厳しい高齢者の措置などの業務にも携わりました。

稲継   福祉事務所は、何年いらっしゃったんですか?

杉山   そうですね。約6年です。

稲継   その次に、今の総合政策推進課に移られたんですね。

杉山   そうですね。

稲継   でも、福祉と総合政策推進って、あまり関わりがないような。あるのかもしれないですけど、全然違うところに来たなというイメージでしたか? どんな感じですか?

杉山   そうですね。これまでの異動もそうですけど。

稲継   あまり脈略がないですね(笑)。

杉山   そうですね。私が市役所に入庁した時は、「10年3課」と言いまして、新入職員はいろいろな業務に携わったほうがよいとの人事方針で、3年ペースぐらいで異動するような感じでした。私の場合はみどり農水課のように観光部門の賑やかなところのイベントをやったりする業務から、その後の福祉事務所に異動した時も、ものすごく業務内容も雰囲気も違いましたし、福祉から総合政策もちょっと違いますね。本当にあまり脈略はないんですけど(笑)。

稲継   普通、市役所の異動で税務畑とか、福祉畑とかつくっているところもあるし、そうじゃない自治体もありますね。熱海は、そういうのはあまりつくらないところですね。

杉山   どうなんですかね。人によっては経験のある部署や関連性のある部署に異動している方もいらっしゃるんですけど、私は平成8年の入庁なので、まだそこまでいっていないのか、わかりかねるんですが・・・。
 でも、自分としては確かに法律も違ったりして大変な部分もありますが、いろいろな課で違う内容の業務を担当することは、勉強させてもらっていると言ったら申しわけないんですけど、いろいろなことを吸収したいと思っているので、そういう部分では恵まれていると思います。

稲継   なるほどね。話は変わりますけど、熱海では「A-biz(エービズ)」ということをやられていると伺ったんですが、どういったものなんですか?

杉山   「A-biz」は熱海市応援チャレンジセンターのことで、産業振興課の職員が熱海商工会議所の職員と共に、チャレンジする事業者を応援するという事業です。具体的には、事業者の方から相談を受け、その企業や商品の強みを活かし、知恵やアイデアを一緒に考え、気づきを与え、企業を支援するというものです。「A-biz」のメンバーは、先進地である富士市産業支援センターの小出宗昭先生のところに研修に行きそのノウハウを学んで、全力で企業を応援する体制を整え、昨年の10月から本格始動しはじめたところです。

稲継   なるほど。ほかの事業展開は、どういうものをやっておられるんですか?

杉山   昨年の4月に熱海市のホームページがリニューアルし、広報担当課を中心として、ホームページのコンテンツを充実させています。先ほどもお話しましたけれども、ホームページ編集会議という庁内の横断的な組織があるのですが、その中で観光課の職員が、「ADさん、いらっしゃい!」という企画を提案しまして・・・。

稲継   「ADさん いらっしゃい!」をちょっと説明してもらえますか?

杉山   フィルム・コミッションをやられている市町はあるかと思うんですけど、ADさんを支援しようというコンセプトなんです。ADさんはかなりロケ地などの下調べや、お弁当の手配、場所の借用など、いろいろと作業が多いので・・・。

稲継   雑用係をしておられるアシスタントディレクターを支援する事業なんですね。

杉山   はい。それを考えた観光課の職員のネーミングや、発想がすごくおもしろいと思うんです。

稲継   おもしろいですね。
 ほかにも何かありますか? この際ですから、どんどん言ってください。(笑)。

画像:杉山由記氏
杉山由記氏

杉山   (笑)、そうですね。
 観光プロモーションで言うと、行政がやっている部分はほんの一部で、観光協会をはじめとして、熱海市には複数の観光協会があるんですけど、それと観光事業に携わる民間事業者や団体の方々が、その多くを担っています。でも、それぞれでやっているので、統一感がないという課題があります。

稲継   うん、ばらばらでやるともったいないですね。

杉山   そうなんです。先ほど稲継先生もお泊りになられたら、真冬に花火をやっていて驚かれたとおっしゃっていましたが、熱海は一年を通じて、本当にいろいろなイベントがけっこう行われているんです。でも、単発的なので首都圏には伝わっていないという課題があります。それに、PDCAがうまく回っていないので、情報接触の評価やイベントの魅力度など、そういった評価・検証をしてきませんでした。
 今後は、今年度作成したシティプロモーションの基本指針に基づいて、シーズンごとのテーマやコンセプト設定による統一感のあるプロモーションや、プロモーションの評価・検証をする仕組みなどを整えて、官民一体となった効果的なプロモーションを継続的に取り組んでいくとになると思います。

稲継   最後に一言、全国の自治体の職員の皆さんに何かありましたら、一言どうぞお願いします。

杉山   今、「新生(リニューアル)・熱海」ということで、熱海は成長の機会を迎えようとしています。変わりつつある熱海を、ぜひその目で、その体で体感しに熱海にお越しいただければと思います。

稲継   はい。ありがとうございました。今日は熱海市にお邪魔して、総合政策推進室の杉山さんにお話をお聞きしました。どうもありがとうございました。

杉山   ありがとうございました。


 「熱海という選択」、「熱海時間」、「A-biz」いくつかの魅力的なキーワードを元にシティプロモーションが展開されている。他方で、雑用係であるADさんを取り込むことによって、熱海を撮影などに使ってもらう機会を増やす。「ADさん、いらっしゃい!」というネーミングも、愉快である。
 熱海はいま、リニューアル真っ最中。今後の熱海に注目したい。