メールマガジン

第68回2010.11.24

インタビュー:赤平市社会福祉課 大井 弘幸さん(下)

 ZEIMNET21を立ち上げ、また、インターネット公売に取り組んだ大井さん。農政課でもYネットを立ち上げるなど、現場と関係者、役所をつなぐ仕掛けを立ち上げていくことになる。その後の赤平市を担う中核人材を育てるきっかけとなる種をまき続ける大井さんは、福祉の現場に飛び込むことになる。しかし、その現場は、行政現場でグレーなところだった、と彼は言う。


大井 平成 19 ( 2007 )年に、社会福祉課の福祉係で、身体障がい者の担当をさせていただいたんですけど、ここが行政現場で究極のグレーなところだったんです。

稲継 どうしてですか?

大井 実際に、福祉の領域というのは、非常に奥が深いなと思いますね。障がい者の方の思いや普段の生活で困っていること、それに対して、何かお手伝いできないかという視点というのは、僕が ZEIMNET21 や 徴税吏員の時に養った「まっとうな 9 割の納税者の視点」や「高い税の感度」と近いものがありました。こういう過疎地になればなるほど、福祉の需要は増えてくるので、本当に困っている人たちにとって、福祉の対策というのが、非常に大切になります。しかし、そのような現場の中で、福祉にかけられている血税を、食い物にしているような人たちが実際に見受けられたんです。
  じゃあ、具体的に何かということなんですけど、身体障害者手帳の不正取得の問題でした。聴覚に重度の障がいがある方だと、会話ができるような状態ではないんですけど、窓口で補聴器も付けずに会話ができる人が多かったんですね。そんな事が日常的に取り交わされていることに疑念を抱きました。補聴器なしで会話ができるのにも関わらず、聴覚障害最高位の級の障害者手帳を持っている人たちが、障害年金を受給していたり、医療費がほぼ無料となったり、いろんな税の軽減制度の適用を受けていて、非常に憤りを感じたんです。その時、「まっとうな 9 割の納税者の視点」が再び光を放ちました。
  それで、前任者や経験者に、このように税金が流れ出ている現状を純粋に相談したときに、実は、福祉現場のパンドラの箱だったことが分かったんです。「今までも、その席に座った職員はそういう実態があることを、関係機関に告げてきている。福祉の現場を担当した者は皆、おまえと同じことを感じていた」と、経験者はみんな口を揃えて言っていました。しかし、過去、その筋に伝えてきた経過があったが、対処されなかったと、その事が結果的に、傷口を広げ血税が多く垂れ流されることになったんです。
  そして、重い腰が上がり本格的に調査が始まり、最終的には、社会保険労務士や医者が、ブローカーのような人間と結託して、事件に発展したことが、全国的にも大きく報道されました。現場での「まっとうな 9 割の納税者の視点」が、血税を垂れ流すことへのストップになったんだと思います。同時に行政現場には、まだまだ、「旧態依然の行政の殻」がたくさんあることを実感しました。僕たちは、行政を守るために、行政の仕事をするわけではないですから、そういう「まっとうな 9 割の納税者の視点」に立って、行政の仕事を進めていくことが重要であり、さらには残りの 1 割の中の本当に福祉サービスを必要としている人たちを守っていかなければならないと思います。

稲継 福祉の不正受給に対して、行政は弱腰であった。現状を変えるのは、すごく勇気がいるし、それをストップしたときに、クレームを受けるんじゃないかとか、行政の側も、行政自体を守るという旧態依然とした感覚がありますよね。それを壊すのはなかなか勇気がいることだと思いますけど、大井さんは、その時にも、やはり「まっとうな 9 割の納税者の視点」という一貫した視点で、明らかな不正受給というのは許さないと、それについてはしっかり対処していくという、姿勢で臨んでこられたわけですね。
  平成 19 年に社会福祉課に異動されてきたわけですけど、ここは 1 年で異動されたんですか?

画像:大井 弘幸さん
大井 弘幸さん

大井 いや、正確に言うとですね、半年で異動したんです。こういうことには、もうこの時点で、大体慣れてきてます(笑)。ただ、障がい者の分野、福祉の分野というのは、まだまだ、学んでいきたいところではあったんですけれども、行政の矛盾と葛藤、つまり、行政では、法律でやらなければならないことが、行政的にしていないこと、できないことがいっぱいあるんだということも強く学んだところです。
  しかし、私の思いは「まっとうな 9 割の納税者の視点」であり、また、全体の奉仕者でもありますから、血税が垂れ流されている現状を見て見ぬふりはできません。結果として、半年で異動となりましたが、その時にも、多くの周りの方、全国の仲間が本当に支えてくれました。地域の方々の評価も非常に高かったですし、この揺るぎない視点が、こういう行動につながっていくんだと思っています。

稲継 なるほど。次に異動されたのが、市民生活課の生活環境・市民相談係というところですね。こちらは何を担当する部署ですか?

大井 ここに異動したのは、ちょうど、平成 20 ( 2008 )年で、夕張市が財政再建団体になり、赤平市も第2の夕張と言われてきていた頃なので、職員の早期退職も 100 人位の規模で行われていました。人員不足も多くありましたので、1人で2つの係、3つの係を担当することが当たり前になっていました。
  そんな中で、生活環境の分野では、ごみの収集や、霊園墓地の管理を担当し、市民相談の分野では、消費行政を管轄し、消費者協会の事務局を担当したり、全般的な市民相談業務を行っていました。市民相談というのは、行政におられる方は、皆さん感じられるところだと思うんですが、どこの分野か分からなくなったら、全部、最後は市民相談が担当するというところなんですけれども(笑)。

稲継 生活環境係と市民相談係を兼務されていたわけですね。非常にたくさんの種類の仕事を担当されたのですが、ここで、少し変わった取り組みをされたとお聞きしました。その取り組みについて、教えていただけますか?

大井 最初に下水道課に配属されて、下水道の整備や給排水の整備に携わっていたんですけど、赤平は、炭鉱住宅、長屋なんかも非常に多くて、実はまだ、くみ取りをする地域が多く存在しています。この部署では、くみ取り料の管理徴収を行っているんですけど、その当時、定額給付金が給付される時期だったんですね。しつこいほど、話をさせていただくと、私は「まっとうな 9 割の納税者の視点」から、滞納や血税を垂れ流すことは許されないと思います。ただ、ここで重要なのは、滞納するには、理由がありますので、例えば、資力、財産がありながら、滞納している有資力滞納者に対しては、税金、血税を垂れ流すべきではないと。そういう人たちに、税金が財源である定額給付金が流れるとしたら、それは、公租公課に充てていただくことが、筋ではないかと考えたんです。

稲継 その通りですよね。

大井 それで、当時、 ZEIMNET21 の中で、そういう議論や活動をしていたのですが、現役の弁護士や司法書士の方々がボランティアで、一緒に議論に加わっていただきまして、当初は、定額給付金を、差押えするべきだというくらいのテンションだったんです。けれども、ある官庁からは差押えはしてはいけないという連絡がありました。全国のあるまちだと、差押えをしたけれども、解除せざるを得ないという状況もあったんです。

稲継 一応、名目上は経済対策ということでしたからね。

大井 でも、一方で、別の官庁からは、率先して取り組んでほしいと言われ、国の中でも意思統一されている政策ではなかったんです。そして、その時の法整備では、実は定額給付金自体が差押禁止財産になっていないんですね。法律に則って、仕事をさせていただくのが僕たちの義務だとしたら、法律の中に、差押禁止財産で法整備がされていない以上は、有資力滞納者に対して債権として、公租公課に充てていただくという仕事が僕たちの義務じゃないかと思うんです。国の中では、意見が割れている状況の中で、テンションを下げるわけじゃないんですけど、差押強制とすると、非常に厳しい文面にもなってしまいますので、じゃあ、そういう思いをお願いしていこうと考えました。
  今回、定額給付金の財源は 2 兆円でした。一方、全国で地方税の滞納総額が 2 兆円以上あります。 2 兆円あったら、じゃあ、僕は何ができるのだろうと考えると、国の財源の不足分だとか、いろんな諸手当に充てることがいっぱいできると思うんです。例えば、今、お話した取り組みを、全国の市町村現場が一体になって行ったとしたら、福祉や教育に使えるすごい予算が、できるんじゃないかと色々発信したんです。
  なかなか思うようには進みませんでしたが、自分が ZEIMNET21 の活動を行ったり 、税の感度を発信していくからには、是非取り組んでいきたいということで、当時の上司にもご協力をいただきました。そして、僕たちが受け持っている未納のくみ取り料金の滞納者に対して、お願いをしていこう、催告をしていこうと考えました。「できれば、今回、定額給付金が支給される中から、一部でもいい、分割でもいい、納付をしてください」という、あくまでもお願いの文書を発送させていただいたところ、 7 割の方が、「そうだよね、あなた達が言うことは正しいよね」と窓口に定額給付金の給付を受けた後に、それを持って支払ってくれたんですよ。
  赤平市で、こういう思いを発信したところ、 7 割の方が充当してくれたという実績がありますから、これを果たして、全国的に、現場の職員が熱意と情熱を持ってやっていただいていたら、どれだけの自主財源が確保できたんだろうという思いもあるんですよね。

稲継 なるほどね。催告書の色が黄色だったそうですが、これは何か意味があるんですか?

大井 はい、当時、徴税吏員になったときに、色分けをしていたんですね。一般的な催告書が白色、黄色の催告書については、要するにサッカーと同じイエローカードで警告だよっていう思いで送っていたんです。それと同時に、今回はお願いですから、幸せの黄色いハンカチではないですが、お願いの思いと、「あなた方の善意が、市の財源になるんだよ。その財源で、このまちが幸せになるんだよ」という思いも込めて、黄色を選んだんですね。

稲継 なるほどね。そういう意味で黄色だったんですね。他にも、この課で取り組まれた 530 (ゴミゼロ)プロジェクトというものをお聞きしたんですけど、こちらも説明していただけますか?

大井 はい、ごみ問題、環境問題というのは全国的なテーマになっていまして、リサイクルフェアなどを各自治体で多く実施されていると思うんです。当時、第2の夕張と言われて、 1 円でも財源確保しておきたいという中で、スローガンを立ち上げて、「 530 (ゴミゼロ)プロジェクト~ゴミを、資源へ財源へ~」いう取り組みをさせていただきました。これは、何かと言うと、税務課の徴税吏員だった頃に、 3 月で異動したということで、実は僕、公売完結までやっていないんですよ。志半ばで異動しているんです。そこで、その時のノウハウだとか、自分の覚えもありましたので、同じ市民生活課に、隣の係ではありましたが、当時インターネット公売を一緒に取り組んだ仲間がいましたので協力してもらい、何か違う形で、取り組みを変換できないかと考えていました。
 そんな中、日々業務の中で日常的に捨てられている粗大ごみの中には、誰が見ても使えるものがありました。それを何とかごみ減量化を柱に、リサイクルできないかと考え、委託しているごみ収集業者と連携し、使える粗大ごみについては、公有財産の普通財産として市(生活環境係)で保管または不要品として提供を受けました。その物件をインターネット公有財産の公売で、市の歳入とすることで、ごみ減量化及び財源確保を目的に取り組んだのが、 530 プロジェクトです。
  実際に、捨てられた粗大ごみの中からは、北海道特有の鹿の角とか、有名な方の書画とか珍しい物が、 3 点ほど、出てきたものですから、これを公有財産の公売にかけてみようということで事務を進めていたのですが、徴税吏員のときに、初めてインターネット公売に取り組んだ時と一緒で、内部からは、理解を得ることが難しい状況がありました。でも、赤平の底力、自治体職員の底力を見せていくためには、第2の夕張と言われているまちだからこそ、ごみと思われるようなものでも拾ってきて、それを 1 円でも市の財源にするという熱い思いを、地域住民に対して、伝えることが大切なんじゃないかと思ったんです。そのことで、地域住民が協働したり、一緒に汗や涙を流していただけることもありますから、絶対にやらせてくれと、その当時の上司や先輩にも頭を下げていただきました。結果、皆さんも覚悟を決めていただいて、仲間にも本当に支えられて、 84,963 円が市の自主財源になったんです。 0 円から 8 万円まで自主財源にできたことを発信し、地域住民をはじめ、全国の自治体の現場の方々に、伝わればいいなあという思いで成功したんです。
  ただ、なかなか、継続できていないというジレンマも結果としてありましたけど・・・、良い話もあって、 この取り組みが、財団法人ふくしま自治研修センターの藤本吉則教授の目に留まって、福島大学の講義に使われたんです。そこの将来公務員を目指すような学生さんから、「大井さんは何でそんなに現場で熱くいられるんですか」とか、「自治体現場や地方の実態を教えてください」など、次代を担う青年の皆様との新たな御縁を頂きました。

稲継 なるほど。この市民生活課の生活環境・市民相談係に、 2 年ほどおられて、そして、平成 22 ( 2010 )年の 4 月に、社会福祉課の生活保護係に異動となり、いわゆるケースワーカーとして、第 1 線現場に出られることになったんですね。今のお仕事について、お話いただけますでしょうか?

画像:旧 住友石炭赤平炭砿立坑
旧 住友石炭赤平炭砿立坑

大井 はい、本当に僕は今、自治体職員でいることに感謝しているんです。というのは、いろんな課や係を経験することで、様々なものの視点を得ることができたからです。僕は「まっとうな 9 割の納税者の視点」ということを徴税吏員のときから、言ってきましたけど、残りの 1 割の滞納者というのは、全部が全部、悪質滞納者だと思っていたんですね。滞納するのは悪だという認識でいたんですけど、実は間違いだったんです。それを自分の経験を持って、多くの徴税吏員や自治体職員にも伝えていきたいところなんです。
  なぜかと言うと、「まっとうな 9 割の納税者の視点」で考える時に、 1 割の滞納者の中には、税金もかからない生活保護世帯、地域住民もいるんだということを、福祉の視点から気づかされたんです。残りの 1 割の滞納者がすべて悪質だと思うことが間違いであったことに、色々な職場を経験させていただくことで、感じさせていただける場が自治体職員の仕事だったんですね。
  僕の今のテーマは「徴税吏員からケースワーカーへ~強制から扶助へ~」です。差押えという強制から、扶助へという思いをテーマで、「まっとうな 9 割の納税者の視点と、残り 1 割の有資力滞納者と無資力滞納者の視線」を持って、自治体の行政サービスをさせていただきたいと思います。

稲継 ちなみに、今、保護世帯のケースはどのくらい持っておられるんですか?

大井 今は 90 件程度ですね。

稲継 いろんな対象者がいると思うんですけど、プライバシーに関わらない範囲で、苦労されたり、大変だった経験がありましたら、教えていただけますか?

大井 はい、先ほどもお話させていただいたのですが、過疎地であり少子高齢化という状況で、また、雇用がなくリストラや派遣切りのケースもあり、生活保護受給者というのは、どんどん膨れ上がってきて、全体の総予算の約 1 割を生活保護費が占めているような地域なんですね。
 そういう異常な状況の中で、近年、国で、地方の定義の話をされていますが、例えば、人口 190 万人の札幌市でも地方ですし、人口 12,700 人の赤平市でも地方です。でも、僕は 3 万人以下の市町村が、真の地方だと思っているんです。自治体初のコールセンターの開設や、円山動物園の再建で全国的にも有名な、私が自治体職員の中で師と仰ぐ、札幌市役所の北川さん(「分権時代の自治体職員」 第 46 回 第 47 回 第 48 回 )にもご指導いただくのですが、北川さんはこう言います。「札幌市の事だけ考えてまちづくりをしても駄目なんだ、札幌と地方が繋がって初めて良いまちづくりができるんだ」と。その事を胸に置きながら、僕は日々思う事があります。札幌市では 8 割近い権限と財源を持って、行政サービスを行うことができる。一方で、 3 万人以下の真の地方では、 1 割、 2 割に満たないくらいの権限、財源、人員で、行政サービスを行わなければならない。そんな状況で、本当に満足いく行政サービスを、今の生活保護受給者、高齢者に僕たちがどこまでできるのか。そういう方々の嘆きや苦しみに対して、 1 割、 2 割しかない権限と財源で、財政再建中の赤平市の状況で、僕らがどこまでのサービスを、高いモチベーションを持って、提供できるかというところが、大きな課題だと思っています。

稲継 ずっと、入庁されてから、今まで取り組まれたことを中心に、お話をお聞きして参りました。このメルマガは、多くの自治体職員が読んでいらっしゃいます。全国の自治体職員の方に、送るようなメッセージがありましたら、是非お願いしたいと思います。

大井 はい、全国には多くの尊敬する先輩たちがいらっしゃる中で、大変恐縮なんですが、自分の経験の中でやってきたことと、熱意・情熱の「意情」な思いを伝えられるとしたら、1つは、今の私のテーマである「強制から扶助へ」、そして「高い税の感度」と「まっとうな 9 割の納税者の視点と、残り 1 割の有資力滞納者と無資力滞納者の視線」を、自治体現場で仕事をする上で、常に持っていただきたいなと思います。
  2つ目は、現在、地域・民間の方との繋がりを大切に、異業種交流もテーマにしているんですが、いろんな方と交流させていただいて、議論をしたり、勉強をすることで、最後に思うことがあるんです。僕たちが自治体現場にいて、行政サービスを地域住民の方々に提供することも、全国の仲間と交流することも、最後は、「笑顔で!楽しくなければ!続かない!繋がらない!」と思うんですね。だから、本当にどこの自治体現場も非常に厳しい状況であると思いますが、そこで、どんなつらいときでも苦しいときでも、みんなは 1 人のために、 1 人はみんなのために、笑顔で、楽しく、続けて、多くの皆様がつながってもらいたいんです。それが、皆さんと、つながっていくための、僕のスローガンであり、そんな皆さんと一緒に頑張っていければという願いです。

稲継 今日は、 ZEIMNET21 の主宰者であります北海道赤平市の大井さんにお話をお伺いました。どうもありがとうございました。

大井 ありがとうございました。


 大井さんがとってきた様々な取り組みは、既存の自治体組織の枠からは、はみ出ているように見えるかもしれないが、税務行政においても、障害者行政においても、し尿処理料金の収納の業務においても、常に「まっとうな9割の納税者の視点」という一貫した視点、地方自治の現場の第一線職員として、極めて重要な視点を持って仕事に取り組んでこられた。
 まだまだ若い大井さんのこれからの活躍に期待したい。