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第115回2014.10.22

インタビュー:玉野市人事課の皆様(中)

 採用情報Facebookをはじめた玉野市人事課。職場の雰囲気はとても和やかで明るい。市役所の雰囲気も良い。取材に訪れた際、市役所の中を一人で歩いていると、色々な職員から声をかけられた。これも人事課が「あいさつ一声運動」を展開して、現在の状態まで職員力を向上させたことによるものだ。
 人事課長が先頭に立って「あいさつ一声運動」という活動を始め、人事課の職員が、職員の登庁時に役所の入り口に立って、挨拶しながら職員にチラシを配るという、地道な活動を行った。市役所職場の雰囲気はなかなか変わらない。そこで平成22年度に「住民満足度向上研修」というのを半年間かけて行った。


画像:取材風景
取材風景

増田  その年は、7月から12月にかけて、接遇やOJT、報連相といった、どの職場にも共通する基礎的な内容の研修を、毎月開催しました。最初の7月と、最後の12月は、事務職と技術職のほぼ全員、240人くらいの職員が受講して、住民満足の向上について考えてもらいました。その間の8月から11月は、毎回管理監督職員100人くらいが参加しています。月ごとに違うテーマで講義をした後で、それまでの1か月間、職場の中で住民満足の向上に向けてどんな取り組みをしてきたかとか、上司としてどんなOJTをしてきたか、全員が発表する時間を設けました。
 半年間継続して取り組んだことで、職場全体の雰囲気が変わってきました。以前だと、新人職員が接遇を学んでから職場に配属されても、すぐに職場の雰囲気に馴染んでしまって挨拶をしなくなってしまいましたけど、最近は先輩職員の行動を見て、新人職員も積極的に挨拶をするようになって、お客様への対応もよくなりました。職員の対応の良さに、驚かれる市民の方もいらっしゃいます(笑)。

稲継  そういった風土の中でいろんな取り組みをここ数年やってこられたわけですが、その辺のところを三ノ上さんにお伺いしたいと思いますが、どんなことをこれまでやってこられたのですか?

三ノ上  職員の採用試験の取り組みで言うと、一度大きな転機がありました。行革を進める中で、職員数削減の一環として平成18年度の新規採用をしなかったんですが、1年間採用試験のブランクがあったのを機に、平成19年度採用に向けた採用試験では事務職の専門試験を廃止して、一次試験で事例式課題の試験を導入しました。二次試験でプレゼン面接を導入したりもしました。そのあたりから徐々に採用試験の改革を進めてきました。
 私が採用担当になったのはその後の平成20年からですが、最初に取り組んだのは保育職の実技試験の見直しです。それまでは保育職を採用するときの実技試験は、ピアノや美術の試験を行っていて、ちょっと違和感を感じました。音楽や美術の先生を採用するわけじゃないのに。もっと実際の保育に近い実技試験をしたいと思って、いろいろな自治体に聞いたり、保育についての本も読んだりしながら、模擬保育を行う試験に変えました。その結果として、試験の内容を変えれば合格者の質も変わってくることを実感しました。
 事務職の方では、その当時は一次試験でペーパーテスト、二次試験で作文とプレゼン面接、幹部面接でした。一次試験を通過した人は全員が幹部面接を受けることになっていましたので、二次試験のプレゼン面接や保育実技で選抜してから、幹部面接は三次試験ということにしませんか、という案を上司に上げました。その年にはこの案は実現しなかったんですが、プレゼン面接を5年間、保育実技を2年間やって、ノウハウも蓄積されてきたので、平成23年度の試験からは三次試験までやって、二次試験は中堅職員で選抜することになりました。そうすることで一次試験の合格者を増やすことができますから、いわゆる優等生、勉強がすごくできる人......。

稲継  偏差値がいいとかいう人たちですね。

三ノ上   そうです。そういうごく一部の人だけが一次試験を通過するのではなくて、一次試験の合格者を増やすことで、勉強がトップクラスじゃないけど、人間的な魅力を持った人が以前よりもたくさん通過するようになりました。で、その二次で選抜するのに、平成24年度からはグループワークや中堅職員による個別面接を取り入れました。個別面接は、通称グルグル面接と言っていますけど、これは人事交流をしている大阪の泉大津市のやり方を参考にしています。面接官が5人、別々の席に座っていて、受験生は面接官と1対1で話をしたら、次は別の面接官と話をしてもらうというのを5回繰り返します。受験生が会場をグルっと回りながら面接するので、グルグル面接と呼んでいます。集団面接と同じくらい短時間でできて、しかも1人ずつ集中して話ができるので、いいやり方かなと思っています。そういうのを取り入れたり、一次試験でエントリーシート方式を導入したり、そういった取り組みをずっとやってきました。

稲継  何か非常に短期間に次から次へ改革をしたということで、これ、たぶん1つのある普通の自治体でいうと相当決裁に時間がかかり、なかなか動かないというイメージです。スピード感がすごくありますね。スピード感が出せるのはどういうところに秘訣(ひけつ)がありますか?

三ノ上  最終決定は採用委員会の長である副市長ですが、最初に事務職の専門試験を廃止したのは、当時総務部長だった今の副市長の発案でした。ですから、採用試験制度を改革すること自体には、副市長は前向きです。その後は人事課からの発案でいろんな改革を進めてきて、三次試験にするときには、実現まで1年かかりましたが、試験内容を見直すごとに最終面接に残る人材のレベルが上がって、幹部からの印象も変わってきたんじゃないかと思います。

稲継  なるほど。いろんな取り組みをやってこられた中で、岡山県の市町村振興協会の方からスーパー公務員養成塾に参加しないかという話が来て、玉野市さんは人を送るようになられました。で、最初は2号の増田さんが行かれたと思いますが、それは送りこむことについて人事課サイドとしては何か抵抗はなかったですか? 時間を取られてしまいますよね。その上で。その辺のところはどうですか?

三ノ上  研修を受けてもらうことへの抵抗はありません。時間を取られてしまうので、残業が増えたりすることはあったと思いますけど、自分の跡を継いでもらう人事担当として育って欲しいという思いで参加させました。私自身、採用とか研修を担当してきて、他の自治体の人事担当者との横のつながりというのがものすごく大事だなということを実感しています。スーパー公務員養成塾に参加していろいろ教わることができるという面もありますけど、年間通じて同じメンバーで活動すると、深いつながりができるということで、ぜひ、行ってくれと。

稲継  なるほど。スーパー公務員養成塾の1期生として増田さんが参加されましたが、どういうものだったか、簡単に説明してもらえますか?

増田  人事の最新の情報をいろいろなテーマ別に深く教えていただけるという貴重な機会だったかなと思います。

画像:増田 浩子氏
増田 浩子氏

増田  最初はやっぱりスーパーって付いているので、三ノ上から「行ってこい!」と言われた時は、研修の名前を聞いただけで、すごく尻込みをしていたのを覚えています。プレッシャーでお腹が痛くなりそうでした。
 ただ、研修に参加すると、同じように悩んで試行錯誤している、他の市町村の人たちとつながることができ、勇気づけられたり、刺激を受け合いました。今となっては、いい機会だったと思います。

稲継  月に1回ぐらいあったんですか?

増田  月に1回でした。

稲継  月に1回ぐらい皆さん集まって、講師が来てしゃべるときもあれば、自分たちだけでディスカッションするときもあり。1年間受けられてみてどういうところが印象に残っていますか?

増田  印象に残っているのは、採用試験の話と、あと先進地の西宮市を訪れたことです。ほかの自治体で頑張っている方の姿を実際に見ることができて、熱意を直に感じられたのが印象に残っていますね。

稲継  毎回、月一集まって昼間だけじゃなくて夜も続くわけですよね。

増田  はい。

稲継  結束強くなりますよね。ほかの自治体の方だってね。

増田  そうですね。

稲継  岡山県内の人事担当者との横のネットワークが強くなったということですね?

増田  はい。

稲継  1年間でそれは一応終わって、次は3号の岩崎さんが行かれたということですよね。どうでしたか?

画像:岩崎 康博氏
岩崎 康博氏

岩崎  人事課に来て、すぐに三ノ上の方から、「岩崎、行ってこい」ということで推薦書も書いてもらい行くことになりました。人事課に異動になった最初の年なので、自分が置かれている状況がもう採用試験もすぐ始まるし、採用の説明会なんかもやってそういう準備もあったりで、本当に自分がやれるのかなと不安でした。でも行ってみると、目の前の仕事に追われていて、本当に大事なこととかいうのが分かっていないような状況で目の前の仕事を片付けるだけだったのが、行ったことで今の人事の置かれている状況であるとか、どういったところが問題なのか、それから先進地ではどういう取り組みをしているかというのが、一度に分かったというか、一気に視野が広がったという感じです。で、うちで普通にやっている取り組みがほかの市では全然していなかったり、そういったことも知ることができたので、非常に新鮮でした。

稲継  視野が広がった。ネットワークが広がった感じですね。

岩崎  そうですね。

稲継  なるほど。先ほど三ノ上さんのお話では、もう送り出すことは自分の後任を育てることになるんだとおっしゃいましたが、よく人材の材、財産の財と書いて「人財」ということを言いますけど、人材の重要性というのは非常にやはり三ノ上さん始め人事課の方では重視しておられるということですね。

画像:三ノ上 創氏
三ノ上 創氏

三ノ上  そうですね。

稲継  その辺のところをちょっとお話しいただければと思います。

三ノ上  職員にはいろんな経験をしてもらいたいと思っています。玉野市は他団体との人事交流を積極的に行っています。市町村の場合だと県庁や国の省庁に職員を派遣するというのは一般的に行われていると思いますけど、玉野市は、市同士の水平的な人事交流も行っています。姉妹都市の長野県岡谷市であったり、隣の岡山市、倉敷市とか、防災協定を結んでいる大阪府の泉大津市とか、そういうところとも人事交流をしてきました。玉野市を離れて、地理的条件や住民気質、組織風土の異なる職場を経験すると、職員としてだけではなく、人間としても一回り大きくなって帰ってきます。さっきの岩崎の話もそうですけど、目の前の仕事だけしていれば気付かないことをいろいろ気付けるということもあります。役所の中でずっといると、だんだん均質的になってくるというか......。

稲継  きれいに質はそろうけど、粒も小粒にそろっちゃうんですよね。

三ノ上  そうですね。あまり小粒にそろえちゃだめだというのは採用の時にも思っているんですけど、難解なテストをして、それが解けた人だけが採用されているというんじゃなくて、いろんな面から人物を観察して、いろんな性格の者が集まるようにしたいと思っています。一般の方から見ると、公務員向きの人物像と言えば、まじめでコツコツやるタイプみたいなイメージがあるんじゃないかと思います。大学3年生のころに周囲の人からそういうことを言われて、じゃあ、自分は公務員に向いているからと、公務員試験の勉強を始めた人が集まってしまうと、もうそこで人材が一定の枠内にそろってしまっています。そうじゃなくて、民間で就職活動していて、東京の会社で内定もらったんだけど、やっぱり地元に帰ってきたい。玉野市役所なら、公務員試験の対策をしていなくても大丈夫だということで受験してみたという人も大歓迎です。実際そういう人も採用に至っています。多様な人材を組織の中に抱えるということが重要じゃないかと思います。

稲継  組織が生き残り活性化するためには、多様性(ダイバーシティ)というのが非常に重要だということですね。

三ノ上  そうですね。特に我々を取り巻く環境は大きく変化していますけど、多様な人材の中から、現在とは環境の違う未来に活躍できる人材が生まれてくると思います。


玉野市は採用試験の改革を矢継ぎ早に繰り出していった。人物重視ということで、3次試験まで行い、グルグル面接なる面接方法なども取り込んでいく。また職員の育成にも注力する。スーパー公務員養成塾へ人事課職員を送り込んだり、他の市役所と水平的な人事交流を行ったりしている。いずれも多様な人材を育成したいという思いから来ている。