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第11回2006.02.28

自治体組織の人材育成―6

職員の自学を促す人事諸制度 
 これまで人材育成のためには、自学が重要であること、自学を刺激するめには種々のツールを総動員する必要があることを指摘した。12月号では自学を促す仕組みとしての計画的なジョブ・ローテーションの必要性について述べた。先月号では、本人が異動先を決められない伝統的な(日本独特の)人事異動システムとその修正の兆しについて触れた。
 職員の側が、自分の伸ばしたい能力、自分のやってみたい仕事を内に抱えているとすれば、それを実現し、自己実現欲求を満たすことによる自学の刺激というのは、組織にとっても住民にとっても幸せなことである。それを生かしつつ、組織全体の能力をいかに向上していくのかが自治体にとっては重要な課題である。しかしながら、「本人の希望」と「組織の要請」のマッチングはなかなか困難なものである。
 まず職員の職務希望がはっきりしない場合が多い。国家公務員の場合、すでに採用時においてどの省庁に就職するかを選択する時点で、将来携わる職務のある程度の見通しがついている。環境省へ就職を希望する者は、環境問題にかかわりのある仕事をと願って入ることが多いし、外務省を希望する者は、外交官として活躍することを考えている。国税専門官なら税務関係、労働基準監督官なら労基署に配属といったように明確に職務内容が推測できる職種もある。
  ところが自治体の場合、○○市の行政に携わると言うことは言えても、どのような業務に携わるということはイメージしにくい。大部分の学生は、市役所というと住民票を取りに行った窓口しか頭に浮かばない。予算編成期に残業続きで市全体の翌年度からの在り方を考える財務課・財政課の仕事や、議会スタッフとして働く議会事務局の仕事などは、学生には想像がつきにくい。そのような未知の世界に就職して、いきなり希望を言えといわれてもとまどう学生が多いのも事実である。
  やはり入庁後10年間程度は計画的なジョブローテーションを行って、その間に職員自身も様々な職場、職務内容を体験し、あるいは見聞して、自分なりの希望が培われていくべきものである。
  次に職員の希望がはっきりしている場合でも、その把握の方法とそれを活かす方法も困難を伴う問題である。自己申告書を取り入れていても様々自己抑制が働いて素直に自分の希望を書かない場合もあるだろう。希望が明確にかかれていても、本人に当該業務についての能力が不足していることが明白な場合もある。その場合には、その乖離をいかにして埋めるのかという課題にも発展する。
  しかしなんらかの形で本人の希望を活かすような異動形態を、今後考えていく必要がある。30歳台後半以降の、いわゆる能力発揮期においては、それまで培ってきたある程度の専門性・能力を活かしつつ、自治体のプロ職員として,そのもてる能力・専門性を発揮してもらう必要がある。そのためには、本人のキャリアデザインを何らかの形で組織の異動プランに組み込んでいく努力が必要であると思われる。
  前回も触れたように、職員が自律的に組織内における自分のキャリアアップを考えた場合、不意打ちの性格の強い人事異動の可能性が毎春にあるのと、ある程度、自分で次の異動への希望をしたためておいて、その関連の能力を磨こうと努力する機会を与えるのとでは、おおいなる違いが出てくる。
  静岡県のCDPプログラムは「職員個々人の個の自律と組織の支援とをマッチング」させようという試みであった。キャリア研究の権威、エドガー・シャインの『キャリア・ダイナミクス』の原題はMeeting individual and Organizational Needs(個人と組織のニーズを合致させる)である。人は仕事だけでは生きられず、ライフサイクルにおいて仕事と家族と自分自身が個人の内部で強く影響し合う。しかし他方、組織に雇われて働けば、個人を受け入れる組織には組織自体の要求があり、これが個人のもつ要求と調和されなければならない。組織の要求は自治体の場合は住民福祉の向上ということになる。自治体職員個々人のニーズと、公共福祉充実や効率的行政などといった住民のニーズ、これをうまく結びつけて、住民に仕える有能な職員集団を造っていく必要がある。

人事評価制度について
  繰り返し述べてきたように、人材育成のために、最も重要なポイントは「自学」(自ら学習する、自己啓発)をいかに促すのかという点である。能力開発のためのプログラムをいくら用意したところで個々の職員がそれにコミットしなければ全く効果がない。効果測定不在の集合研修を何度受ける機会を与えたところで,また,いくら有名な講師を呼んだところで,受講者が能力開発の意欲をもたない限りすべて公費の無駄遣いに終わる 。個々の職員が,新しい知識や考え方を学び,自らの能力を高めようと考えるモチベーションをうまく引き出す仕組みが最も重要である。
  人事評価制度もそのための重要なツールである。自学を促す大きな要素が「評価」である。人は他から認められればうれしいし,次もがんばろうとする。上司や同僚から「よくやったね」と認められたときや、職場で同僚と力を合わせて難題を解決できたときなどに、達成感を味わう。報酬には、金銭的な報酬以外に、職員がお互いに評価し合い、認めあうことから生まれる非金銭的な報酬もある。評価制度がそのためのツールとして機能すれば、組織全体のモチベーションを高めることも期待できる。
  しかしながら、自治体において「勤務評定」というときには,どうしても暗いイメージがつきまとう。組合の批判も強い。「評価」というものに対するアレルギーも自治体職員には根強くある。とくに,「富士通の成果主義が失敗だった」とのニュースがかけめぐり,それが「人事評価そのものが間違い」であるかのように議論されることもある。
  しかし,そもそも人事評価というものは,「悪者」として語られるべきものであろうか。地方公務員法第40条には「いけない制度」が法定されているのであろうか。評価手法,公開性,評価結果の活用方法など,評価制度の設計次第では、個々の職員のモチベーションを引き出し、能力開発につなげる仕組みとなりうる可能性を見出し得ないであろうか。
   
  人事評価についてはさまざまの意見がありうる。皆様は、何のために人事評価を行うと考えておられるだろうか。
   
  宿題:「人事評価について、あなたの考えることを自由にお書きください。
      一般論でも特定の自治体に関することでも結構です。」