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第01回2005.04.27

新連載!「分権時代の自治体職員」(第1回)

「あなたは,何故,○○市へ入庁したいと考えるのですか?」
 自治体の採用試験の個人面接で尋ねられた最近の学生は,「安定しているから」「残業が少ないから」という消極的な回答はしない。公務員試験予備校で,積極性をアピールするように教えられているからである。
ある試験対策本の練習問題に次のものがある。
 *<簡単に志望動機を作成しよう>
 *「(1)私は_____に以前から関心をもっている。(着眼点)」
 *「(2)その意味で,御市が取り組んでいる_____には強い関心がある。(具体的な接点)」
 *「(3)これは,_____という点でとても大きな意味をもち,そこに私は共感した。(理念)」
 *「(4)したがって,私は_____を創っていきたいと考え,御市を志望した。(将来像)」
 この本では,自治体のホームページやパンフレットなどから資料収集をして,各受験生が分析をし,上の空欄を埋めて試験対策をするようにすすめている。
 すでに自治体に入っている職員の方々の多くは,試験対策としてではなく,本当に,今勤めている自治体に愛着を感じて,あるいは,ある仕事がしたくて,チャレンジするつもりで採用試験を受けている(以下,「A様」と呼ぶ)。しかし,なかには,安定しているから,給料が毎年あがるから,残業がないから,というやや消極的な要素を重視して職業選択した方もおられるだろう(以下,「B様」と呼ぶ)。
 1980年代までの自治体は,B様にとって居心地の良い組織,仕事のあり方であった。安定性,年功給,時間的余裕,楽な仕事,という神話は長い間続いてきた。主要な政策決定は霞ヶ関でなされ,自治体はその執行を行う機関にすぎない面が強かった。自ら積極的に様々なことにチャレンジしようと考えるA様は,その創意工夫を発揮する場面が少なく,失望感にさいなまれることもあっただろう。しかし,その後1990年代後半から,この状況は大きく変化する。
 1990年代に進められた地方分権改革は,地方の自律性を高める一方で,自治責任ー地方公共団体が「自ら治める」責任ーの範囲を飛躍的に増大させてきた。議会と首長を補佐する自治体職員も,その影響を大きく受けることになる。日々の事務の管理執行において,国の省庁(や都道府県)による指示を口実にして主体的な判断を回避することも,困難な事態に直面して安易に国の省庁(や都道府県)の指示を仰ぐことももはや許されなくなりつつある。
 自治体は自らの責任において,それぞれの地方の実情にあった,柔軟で効率的な行政サービスの提供をはじめとする種々の取り組みが求められている。いよいよ,A様の活躍の舞台の幕があいた。
 1990年代以降の自治体をとりまく環境変化は,分権改革だけにとどまらない。行政情報の公開を求める声は,行政の意思決定への参加を求める声にも発展していった。住民参加,市民参加が,1970年代とは異なる文脈で広まっている。行政需要をみたすサービスの提供主体が自治体に限られていた時代から,民間やNPOなど多様な主体と役割分担をする時代にも入った。従来のパターンを踏襲することに躍起となるB様にとっては逆風である。しかし,住民との連携などの新しい行政のあり方を探ろうとするA様にとっては,追い風,絶好の機会である。
 いわゆるニューパブリックマネジメント運動の全国的な伝播も著しい。行政評価,バランスシートやPFIなど,10年前には自治体職員の大部分がその意味さえ知らなかった行政運営手法が今では当然のこととなりつつある。IT化の勢いもすさまじい。B様はおたおたするばかり。A様は,休日を使って図書館で新しい知識の吸収に努めている.........
  大転換期にあって,地方自治の担い手である自治体職員には,旧来の時代の事務処理能力にとどまらない,柔軟で,新しい能力が求められている。時代は新しい地方公務員を求めているのである。時代が求める地方公務員をどう育成していくか,どのように人材育成を行っていくのかは,全ての自治体にとって最も重要な課題である。自治体が持っているめぼしい財産は,人材しかないのだから。
 自治体が抱える人材はA様ばかりではない。今後,数的には大きな割合を占める「B様」をうまく育て,貴重な戦力として活躍してもらわなければならない。そのためには,どうすればよいのだろうか。
 このシリーズでは,「分権時代の自治体職員」「人材育成」というキーワードで,自治体職員のポテンシャルの向上,人材育成について皆さんとともに考えていく予定です。